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近代文学6

坂口安吾『堕落論』

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青葉から堕ちそうな雫

坂口安吾(1906-1955)『堕落論』は第二次大戦後の昭和二一年(1946)「新潮」に発表した評論。当時の文章の書き方について、以下にみてみましょう。

原文(一部抜粋)

戦爭に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。

だが、人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に對して鋼鐵の如くではあり得ない。人間は可憐であり脆弱(ぜいじゃく)であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。

人間は結局處女を刺殺せずにはいられず、武士道をあみださずにはいられず、天皇を擔ぎださずにはいられなくなるだろう。

だが他人の處女でなしに自分自身の處女を刺殺し、自分自身の武士道、自分自身の天皇をあみだすためには、人は正(まさ)しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。

そして人の如くに、日本も亦堕ちることが必要であろう。堕ちる道を堕ちきることによつて、自分自身を發見し、救わなければならない。政治による救いなどは愚にもつかない物である。[1]

解説

異体字

  1. 爭:争(ソウ)/争は爭の略体。力をいれてあらそう意。
  2. :対(タイ)/対は對の略対。寸(て)+丵(上に歯のある道具)+口。士が道具を手にもち天子に面とむかってこたえる意から、こたえる、むかう意。
  3. :鉄(テツ)/鉄は鐵の通俗体。くろがねの意。
  4. :処(ところ)/処が原字で、處は処+虍(→居、おる)。台のもとにどどまるの意。
  5. :担(かつぐ)/常用漢字では、担は擔の通俗体。手+詹(上をおおう)。肩でになうの意。
  6. :発(ハツ)/発は發の略体。足を開きふんばり弓矢を射る意。[2]

MEMO

戦後の作品『堕落論』では歴史的仮名遣いはほとんどありませんが、異体字(旧字)が結構ありましたので、上記にピックアップ。間違ってもおベンキョーではなく、堕落の中でお楽しみください。

補註

  1. 伊藤整他 編集『日本現代文学全集90 石川淳・坂口安吾集』(講談社、1967年)より引用。
  2. 林大(監修)『現代漢語例解辞典』(小学館、1996年 )参照。

近代文学

はじめに漱石葛西賢治太宰/安吾/高見

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