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百姓往来7

農具の名前

江戸時代の往来物(教科書)『百姓往来』から、当時使われていた様々な農具を名前と共に紐解きます。

史料

百姓往来_農具の名前

※無断転載禁止

原文

百姓往来(ひやくしやう おうらい)

凡(およそ)百姓(ひやくしやう)取扱(とりあつかふ)文字(もんじ)、農業(のうぎゃう)耕作之(こうさくの)道具者(どうぐは)先(まづ)

鋤(すき)鍬(くは)鎌(かま)犁(からすき)馬把(まぐは)钁(とうぐは)竹把(たけくまで)鉄把(かなくまで)篦(へら)□(こえ)桶(たご)天秤棒(てんびんぼう)簣(あじか)持籠(もつこう)駒掫(こまざらへ)鋤簾(じよれん)朳(えぶり)

捌(またぶり)槌(つち)檋(がんじき)(そり)間杭(まぐい)連架(からさほ)蒲器(かまけ)稲扱(いねこき)碓(ふみうす)礭(すりうす)春臼(つきうす)挽麿(ひきうす)杵(きね)轢(ひき)遣木(やりぎ)泥障(あほり)

>>頭書 解読文

現代語訳:構造、用途等

耕作

  1. (すき):現代のシャベル相当。刃に対して柄が平行。手とを使って土を掘り返すので、鍬よりも深く楽に耕せる。
  2. (くわ):刃に対して柄が斜め50度前後。農民が田畑を耕すのに使う第一。
  3. (かま):除草具。
  4. 犁(からすき):畜力。にひかせて土を掘り起こす道具。田の耕起は深耕がよいとされ、もっぱら鍬が用いられ、犁耕は発展しなかった。
  5. 馬把(まぐわ):馬鍬。畜力。牛馬にひかせて土を砕いたり、ならしたりする。
  6. 钁(とうぐわ):唐鍬。刃部を全部鉄で造り、木の柄をはめる。

運搬

  1. 竹把(たけくまで):穀物・落葉などをかき集める竹製の道具。熊の手に似ているところから。
  2. 鉄把(かなくまで):鉄製の熊カ。
  3. 篦(へら):物を練ったり、塗るときに使う。
  4. □(こえ):-
  5. 担桶(たご):担ぐ桶。水や下肥を入れて、天秤棒で担う。
  6. 天秤棒(てんびんぼう):両端に荷をかけ、中央に肩を当てて担うための棒。
  7. 簣(あじか):素材は竹・葦(あし)また藁で、ザルに似る。土・草・野菜などを運ぶのに使う。[]
  8. 持籠(もっこう):持ち籠(もちこ)が転じて畚(もっこ)とも。縄などを編んだ四角い網に吊り紐を付ける。棒でかつぐ。用途は13.簣に同じ。
  9. 駒掫(こまざらい):竹製で、7.竹把と同じく落葉を掻き集めるのに使う。箒のような形状。

補助具

  1. 鋤簾(じょれん):土砂をすくう農具。竹を箕(み)のように編んだものや塵取りのような板に竹・鉄製の歯をとりつけたものを長い柄で固定。土をすくう場合、鍬よりも能率がいい。
  2. 朳(えぶり):竿の先に横板をつけ、穀物の実などを掻き寄せ、また田畑の地ならしに用いる農具。
  3. 捌(またぶり):捌(さば)く。11.朳に同じ。
  4. 槌(つち):物を打ちたたく工具。

履き物

  1. (かんじき):履物。深田や泥田または雪において農作業をするときにはく。
  2. (そり):1.檋(かんじき)に同じ。『旅行用心集』にも記載あり。
  3. 間杭(まぐい):-

脱穀

穂から穀粒をとり離す。

  1. 連架(からさお):唐棹。竿の先につけた短い竿をまわしながら、地面に広げた穀類・豆類を叩く。
  2. 蒲器(かまけ):叺(かます)。わらむしろを二つ折りにして作った袋。穀物などを入れる。
  3. 稲扱(いねこき):千歯扱き。近世の発明。台木に竹や鉄(元禄後)の歯を数十本を櫛のように埋め込んだ脱穀機。歯の隙間に穂を挟み込み、手前に引いて脱穀する。

籾(穀物の実の皮)を取り除く。

  1. 碓(ふみうす):唐臼(からうす)。てこの原理を利用した足踏み式で、籾殻を除く。近世に普及。
  2. 礭(すりうす):磨臼、摺臼とも書く。上下二個の円筒形の回転式。数人で上の臼を回転させて、籾をすって籾殻を取り去る。臼は強粘土の本体に竹や木で外側を囲む。土臼、唐臼(とううす)とも。
  3. 春臼(つきうす):搗臼。つきでお馴染みの臼。円筒状の器に穀物などを入れて杵で搗(つ)く。
  4. 挽麿(ひきうす):挽臼。石製で平たい上下一対の臼。穀物を粉にする。
  5. (きね):3.春臼(つきうす)にいれて、穀物やをつくのに用いる。木製。
  6. 轢(ひきぎ):挽木・引木。4.挽麿(ひきうす)を回すためについている、肘の形の柄。
  7. 遣木(やりぎ):-

その他

  1. 泥障(あおり) :泥よけの馬具。皮革製で馬腹の両脇を覆う。

解説

現代と違い江戸時代百姓は、家族を養うためというより、年貢米の納めるために農業に従事しています。

そのような背景のもと、史料には当時使用されていた農具の名前が並びます。当時と全く同じとはいきませんが、近いものでamazonで購入できそうなものはリンクを貼りました。が、余り貼ることができなかった――則ち史料に示された農具は、機械化された現在においてはほとんど使われていないということです。

然しながら「鋤簾」(じょれん)は、当時から耕作の際に補助具として愛用されていたので、村方文書ないし農村史を学ぶ方などは覚えておくとよいと思います。現在も史料のとおり鋤簾と書きます。

補註

簣(あじか)…『論語』子罕19「一簣(いっき)を復すと雖(いへ)ども、進むは、吾れ往くなり」

参考文献

  1. 秋山高志・前村松夫・北見俊夫・若尾俊平 編『図録 農民生活史事典』(柏書房、1991年)
  2. 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )

頭書 解読文

世帯道具(せたいどうぐ)字尽(じつくし):(なべ)釜(かま)竃(へつい=かまど)曲突(くど=かまど)燻(すびつ=いろり)鑵子(かんす=茶釜)薬鑵(やかん)水瓶(みつがめ)手桶(ておけ)

史料情報

  • 表題:百姓往来
  • 年代:文政3/浪花禿帚子 再訂、鱗形屋孫兵衛・ 西村屋与八 板
  • 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3384
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百姓往来

1.概要 2.仁徳天皇の仁政 3. 4. 5. 6.

7.農具 8.年貢の納め方、助郷

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