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百姓往来6

信(しん)とは

史料

信(しん)_百姓往来

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解読文

原文

信(しん):朋友(ほうゆう)にましはる事は、世にある人にましはり、諂(へつ)らひは常(つね)のならひなり、落魄(をちぶれ)て便(びん)なく、貧(まづ)しき人に情(なさけ)をかけ、とり分懇(ねんころ)に交(まじ)るして、人の誠(まこと)とはいふべけれ

今時はさにあらず、とかく人をすてゝ、金銀(きん/\)にましはるが世の中なり/哥ニ 数(かづ)ならぬ 身ととふ人の 心して いつはりもなき 情(なさけ)なりけり

現代語訳

(しん)[1]:友人と交わることは、世にいる人との交わり。へつらいは常の習いなり。落ちぶれて不憫で貧しき人には情けをかけ、とりわけ親しく交わって[2]人の誠と言うべきだ。今時はそうではなく、とかく人を捨てて金銀に交わるが世の中だ。

歌に「数ならぬ 身ととふ人の 心して いつはりもなき 情なりけり」(私は取るに足らない身と相手を見舞う人の心は、偽りもない情けである)

補註

  1. 信…『論語』学而04「朋友と交わりて信ならざるか」(友だちとの交際に自分の言葉を裏切ることはなかったか)
  2. とりわけ親しく交わって…『論語』公治長17「晏平仲(あんぺいちゅう)善く人と交はる。久しくて之れを敬(けい)す」

解説

(ちゅう)とは儒教徳目の一。『漢和辞典』によると①まこと、まことの。②しんじる、信用する。などの意味があります。

史料の憂いは同様に、荻生徂徠政談江戸時代の装束に「金を持たず、見栄え悪ければ、高位・有の人も自ずと肩身がすぼまって人に蹴落とされる今の世界である。」

則ち現代と全く変わりがありません。然しながら武蔵国幡羅(はら)郡下奈良村(埼玉県熊谷市)名主吉田市右衛門は、近世村落史の分野においては比較的名の知られた人物ですが、貧しいと人々ををもって救う、ここでいう信を貫いた人物だと思います。

参考文献

  1. 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年 )
  2. 林大(監修)『現代漢語例解辞典』(小学館、1996年)

史料情報

  • 表題:百姓往来
  • 年代:文政3/浪花禿帚子 再訂、鱗形屋孫兵衛・ 西村屋与八 板
  • 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3384
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百姓往来

1.概要 2.仁徳天皇の仁政 3. 4. 5. 6.信

7.農具 8.年貢の納め方、助郷

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