五常とは
三綱との関係
三綱(さんこう)とは儒教で、父子、夫婦、君臣のことで、基本的な人間関係を表します。
これに対し五常(ごじょう)とは儒教で、仁(じん)義(ぎ)礼(れい)智(ち)信(しん)のことを言います。魏の何晏(かあん:一九三?~二九四)が三綱と五常をまとめて三綱五常(さんこうごじょう)と言い、また三綱はもとは法家の思想という説があります。
三綱が父子間の孝、夫婦間の貞、君臣間の忠という具体的な人間関係に対し、五常は抽象的な道徳。然しながら五常の適応範囲が三綱に限られると、現代において儒教が通用しなくなります。現代において三綱を強調して儒教を否定したい人もいれば、五常に焦点を当てて儒教を顧みる人もいます。
近世儒者による解説
林羅山『春鑑抄』(しゅんかんしょう)冒頭に曰く「仁・義・礼・智・信ノ五(イツヽ)ヲ五常(ジヤウ)ト云(いう)ゾ。常ハ、ツネトヨムゾ。常(ツネ)ト云ハ、物ノ常ニアリテ カハラザルヲ云ゾ。カハルナラバ常トハ云マヒゾ。」
荻生徂徠『弁名』下_五常 一則に曰く「五常は始め泰誓(書経の篇名)に見ゆれども、いまだ何を謂ふかを審(つまびら)らかにせざるなり。仁義礼智並べ言ふ者は、始めて孟子および喪服四制(礼記の篇名)に見ゆ。…宋儒に至りては…仁義礼智信の、四徳・五常を、儒者の第一義となし、しかうしていまだ敢へてこれを議する者あらず。みな古(いにしえ)を知らざるの失なり。」
ともあれ五常は陰陽五行説に対応し、仁は木気、義は金気、礼は火気、智は水気、信は土気にそれぞれ配当されています。
四徳(しとく)
五常のうち信を除く仁義礼智をとりわけ四徳と言います。朝鮮王朝では、婚礼の際に新婦が付けるリボン・トトゥラク唐只に四徳の字ヅラそのものを見ることができます。
『孟子』(告子章句上)に曰く「仁義礼智の徳は、決して外からメッキされたものではなく、自分がもともと持っているものである。ただ人はぼんやりしていてそれでに気づいていないだけだ。」
参考文献
- 土田健次郎『儒教入門』(東京大学出版会、2011年)
- 石田一良 校注「春鑑抄」『藤原惺窩 林羅山(日本思想体系28)』(岩波書店、1975年)116頁
- 西田太一郎 校注「弁名 」『日本思想大系36 荻生徂徠』(岩波書店、1973年)