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古文書概論その11

古文書と漢文の違い

全く違う

古文書をやってます」と言うと「漢文?」と聞き返されることがあります。無理もありません。

日本の江戸時代の文書はきほん、候文(そうろうぶん)と呼ばれる漢字だらけの文章。古文書の特徴を見ていただた通り、一見すると漢文のようです。しかし解読してみると、現代日本語と語順がさほど変わりがないことがわかります。則ち古文書といえど、あくまで「日本語の文書」なのです。

これに対して漢文は昔の中国の文書。くずし字でなく活字の解読といえど、日本語の語順で読んでも全く意味が通じません。

漢文の一例

以吾従大夫之後不可徒行也 『論語』先進08

  • 返り点:以[三]吾従[二]大夫之後[一]不[レ]可[二]徒行[一]也
  • 読み順:吾→大夫之後→従→以→徒行→可→不→也
  • 訓読:吾(わ)が大夫(たいふ)の後(しりへ)に従へるを以(も)つて、徒行(とかう)す可(べ)からざるなり。
  • 現代語訳:私(孔子)も大夫の末席についているからには、徒歩で歩くわけにはいかない。
  • 時代背景:士大夫(したいふ)は士と大夫。大夫(たいふ)は士の上の官吏。馬車に乗り、徒行しないのが慣習であった[註1]。

古文書の場合

  • 返り点:有之(これあり)、可仕(つかまつるべく)、被仰付(おおせつけられ)など返読文字が出てくるが、返り点を打たなければ解読できないほど文章全体がひっくり返ることはない。
  • 読み下し文:くずし字が解読できれば、読み方にそれほど苦労することもない。
  • 現代語訳:時代背景を知らないとくずし字が解読できても、意味が通じないのは漢文と同じ。

読書人とは

読書人(どくしょじん)という言葉があって、漢文を能(よ)くする人のことを言います。中国・朝鮮において、儒教を身に着けた文人・士大夫などのエリートがこれにあたります。

日本においては、近世儒者の藤原惺窩林羅山新井白石荻生徂徠などが代表的な読書人と言えるでしょう。また日本人が大好きな武士が江戸時代、藩校で何を学んだのかといえば官学である儒教(朱子学)[註2]。武士でも漢文を能くするのであれば、読書人と言えます。

最初に覚えることでも少し触れましたが、歴史学、特に江戸時代を研究するにおいては儒教の位置付けが、その後の分かれ道になると思います。

漢文解読に、古文書解読のノウハウはびっくりするほど通用しません。小中高で習ったことすら「無」!(笑) 科挙(官吏登用試験)とセンター試験とでは学問体系が根本的に違い、語順がひっくり返るどころの話ではありません。

然しながら一応(学校教育によって)漢字にアクセスできる身としては、漢文(経学・詩文含む)は一言で単純に「面白い」です[註3]。

  

補註

  1. 平岡武夫『全釈漢文大系〈1〉論語 (1980年)』(集英社, 1980年 )参照。『礼記』王制編に「君子の耆老(きろう/(耆は六〇、老は七〇)六〇~七〇の老人は徒歩せず」という。(同書参照)
  2. 頼祺一編『日本の近世 (第13巻) 儒学・国学・洋学』(中央公論社、1993年)に詳しい。
  3. 歴史学者の読書人として思い当たるのは北島万次先生。遺作の『豊臣秀吉 朝鮮侵略関係史料集成(全三巻)』には、お仲間と非常にご苦労して解読された朝鮮王朝実録(漢文)が収録されている。

古文書概論

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