解説
くずし字だけでは…
周知のとおり古文書の多くは、くずし字(草書)で書かれています。
かくして読めるようになるには、せっせとくずし字を覚える――ことに疑問を持つ人はいないでしょう。然しながら、くずし字だけ覚えても古文書を理解するに至りません。
江戸時代に使われていた言葉――助郷(すけごう)、人足(にんそく)、高直(こうじき)など、現在使われていない言葉が古文書にはたくさんあるので、これらの意味も知っておく必要があります。もっと言えば、詳しくは次項に譲りますが、図書館に行って調べなければいけないケースも多々出てくると思います。
一方、その文書全体を理解するには、時代背景、つまりは江戸時代の暮らしと文化、幕府の政治、社会システム等も知っておく、あるいはこれも図書館で調べる必要があります。
AIは解読できる?
くずし字解読自体は、早晩AIが解読してくれる――
かもしれませんが私自身、日々解読していて思うに相当厳しいと思います。何故にというに、未だ入力できない異体字やら旧字も多いのが現状。AIが解読した場合、戦後に出来た常用漢字で出力する気なのだろうか…。
要するに、国家がお決めになった漢字制限に盾突くくらいの気構えが「人間の」側にないと、旧字としての活字(楷書)の出力すらままならないと思います。
故にこの先はホラーさながら、ブロック体ではない くずし字は文字が繋がっているのが特徴。従ってAIがこれを解読するにあたっては、まず文字の切り離しが発生するはず。これをまた繋げる――とか情けないだろ。
また人が古文書を読む際は、文脈が助けになりますが、ヤツの一番苦手なのが文脈の理解。すなわち人間の場合、お寺の扁額や掛け軸など文脈がないくずし字解読は、短いものの難しいです。
ところでまさか、古文書関係(専門分野)を「活字体で」AIに聞いたりしてないですよね?(笑) AIは明らかに間違った回答を「無責任に」出してくる場合は勿論のこと、次項学習の具体論で述べます「私自身の」学習の妨げになる――則ち却って後進に先を越されるリスクに注意すべきです。
個人的にはAIを余りナメない方がよい、という考えですが前述のとおり当面彼(AI)は、くずし字解読も難しいので現代語訳はもっと厳しいでしょう。解読できても意味がわからないって、そんな悲しいことあります?
かくしてAIを反面教師にして、①くずし字、②言葉の意味の理解、③江戸時代の暮らしと文化、これらをバランスよく学習することが、人間にとって益々大切になってくるはずです。
参考文献
- マレー・シャナハン著、ドミニク・チェン(監修、翻訳)他『シンギュラリティ:人工知能から超知能へ』(NTT出版、2016年)
- フリードリヒ・キットラー 著、大宮勘一郎・石田雄一 翻訳『書き取りシステム1800・1900』(インスクリプト、2021年)
古文書概論
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