解読文(枠内)
原文
一 道中(たうちう)初てする輩(ともから)、馬(むま)・駕籠(かこ)・人足(にんそく)の用あらば、宵(よひ)の中(うち)に亭主(ていしゆ)にあひて頼むべし
相たひにては、途中(とちう)にてこまる事あり、帳面(ちやうめん)ある人は、着(ちやく)したる時、宿のものへ渡(わた)し頼むへし
扨(さて)、明朝(めうてふ)何時(なんどき)出立(しゅつたつ)と宵(よひ)より宿人申付、其(その)刻限(こくげん)に応(おほ)じ、其間(そのま)にあふ程(ほと)に自(みつから)起(おき)、
若(もし)、宿屋(やとや)不起時(おきざるとき)は、宿(やと)を起(おこ)し、膳(ぜん)の用意(ようゐ)する迄(まて)に、支度(したく)をいたし、草鞋(わらし)をはく計(はかり)にして膳(せん)に向(むか)ふべし
さなければ、人馬(にんば)の用意も自然(しぜん)と等閉(なをざり)になりて手間取(てまとり)、都合(つかう)あしきなり、旅(たひ)にては、貴賎(きせん)ともに此法(このほう)を守(まも)らされば、手廻(てまは)し悪(あし)しと知(しる)へし
現代語訳
旅行が初めての人々は、馬や駕籠や荷物を運んでくれる人が必要なら、宵のうちに宿の主人に頼むこと。直接、その仕事に従事している者に頼むと途中でもめるものだ。
宿の人に上記のことを頼む場合、帳面を持っている人は、行きたい場所の到着時刻を宿の者へ渡して頼むといい。さて明日は何時出発と、宵のうちに宿の主人に申付け、その時間に合わせて自ら起床すること。
もし宿の主人が起きていない時は主人を起こし、膳ができる迄に支度をして、草鞋(わらじ)を履くだけにして膳に向うこと。そうしないと、人や馬の用意も自然といい加減になり都合が悪いものだ。旅にては貴賎ともにこの決まりを守らなければ、備え悪いことを知っておくこと。
解説
くずし字
人足 | 頼む | 明朝 |
にんそく | たのむ | めいてい |
荷物の運搬など力仕事に従事する労働者のこと。 | 頁(おおがい)「類」「頭」もこの様にくずす。 | 「明」「朝」は難読だが頻出文字。 |
用意 | 守 |
ようい | まもる |
「用」のくずし字は左側縦棒を書かない。 | 「守」のくずし字は「寺」のくずし字に酷似。 |
用語
- 相対(あいたい):当事者同士が直接対談のうえ決めること。相互に対談して合意すること。
- 等閉(とうかん、なおざり):おろそか、手落ち、いい加減。
MEMO
史料は『旅行用心集』道中用心六十一ヶ条の第四条。ちょっと長い条文ですが、宿泊の心得について紹介しています。
「おもてなし」はさも日本の伝統のように世間で通用しているようですが、江戸時代では外国船しかり、宿においてもそのような風俗は意外に見受けられないようです。というのも「おもてなし」は、儒教における礼の概念ともまた違うと思いますので。
史料情報
- 表題:旅行用心集/文化7(1810)
- 八隅芦庵 著、彫工:佐脇庄兵衛・同 伊三郎、出版元:須原屋茂兵衛・須原屋伊八
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3361
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旅行用心集
1.概要 2.東海道 木曽路・3.そのⅡ 4.旅の前日 5.持ち物
6.チェックイン・7.アウト 8.食べ物 9.毒虫 10.ソリ
11.雪かき道具 12.頭巾、帽子 13.履物・14.かんじき、下駄