原文
○道中(たうちう)所持(しよじ)すべき品(しな)の事
一 矢立(やたて)、扇子(あふき)、糸針(いとはり)、懐中鏡(くわゐちうかゝみ)、日記(につき)手帳(てちやう)一冊、櫛(くし)并に鬢付油(ひんつけあふら)
但シかみそりは、泊屋にてかり用ゆへし、又、髪ゆひもあれとも只途中又は御関所・城下等通る節、ひんのそゝけざる為なり
一 挑灯(ちやうちん)、ろうそく、火打道具、懐中付
木是はたばこを呑ぬ人も懐中すべし、はたこ屋のあんとうはきへやすきもの故、ふ慮に備ふべし
一 麻綱(あさつな)
是は泊々にて物品をまとひおくに至極よきもの也
一 印板(いんばん)
是は家内へ其印鑑を残し置、旅先より遣す書状に引合せ又金銀の為レ替等にも其印を用ゆる為の念なり
一 此かきを所持すれば道中にて重宝なるもの也
現代語訳
○道中所持すべき品の事
一 筆記用具、扇子、糸針、小さい鏡、日記手帳・一冊、櫛並びに髪を固める為の油
但しかみそりは宿で借りて用いるべし。また髪結い職人があれども、これは旅の途中や御関所・城下等通る時に耳ぎわの髪のほつれを直すためにいる。
一 提灯(ちょうちん)、ろうそく、火打(ひうち・火を出す)道具、マッチ
これはタバコを吸わない人も携帯すべし。宿屋の行灯(あんどう:小型の照明具)は消えやすいものゆえ、不慮に備えるべし。
一 麻綱(あさつな:麻で作った綱)
これは宿にて物品を巻き付けておくのにとてもよいものである。
一 印板(いんばん:板に彫った印刷物)
印鑑は家内へ残しておき、印形(印板)は旅先より送る手紙と照合し、また金銀の為替等にも用いるための心配りである。
一 この鉤(かぎ:先の曲がった金属製の器具で物をひっかけるのに使う)を所持すれば道中にて重宝できるものである。
MEMO
「道中所持すべき品」が、江戸時代と現代とでは大きく違います。最初の矢立・扇子・糸針・鏡・日記手帳などはわかりますが、提灯・麻綱・印板・鉤(かぎ)は「!」。持ち物の頁に、所持品はなるべく少なくするよう助言していますが、当頁を確認すると「道中所持すべき品」の数は、現代よりむしろ多いかもしれません。
史料情報
- 表題:旅行用心集/文化7(1810)
- 八隅芦庵 著、彫工:佐脇庄兵衛・同 伊三郎、出版元:須原屋茂兵衛・須原屋伊八
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3361
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旅行用心集
1.概要 2.東海道 木曽路・3.そのⅡ 4.旅の前日 5.持ち物
6.チェックイン・7.アウト 8.食べ物 9.毒虫 10.ソリ
11.雪かき道具 12.頭巾、帽子 13.履物・14.かんじき、下駄
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