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荻生徂徠『政談』11

貧困問題の解決策

困窮を救う道

荻生徂徠は『政談』において政治のあり方についてまず、古代中国の聖人の道に学べ!と説きました。ここからは貧困問題の具体的な解決策を、武士の現状を踏まえつつ見ていきましょう。

荻生徂徠『政談』巻之二

1.土に定着させ、礼法を立てよ

「されば上下の困窮を救う道とて別に奇妙なる妙術もなし[1]。ただ古(いにしえ)の聖人の仕方には有って、今の世には闕(か)けたることなどあり[2]。これを考えて改めるに及ぶものはない。

それは如何様のことぞと言うに、古の聖人の法の大綱は、上下万民をみな土地に定着させ、その上に法の制度を立てる[3]こと、これが政治の大綱である。

今はこの二つが欠けたる所より、上下困窮し、種々の悪い事も出る。一巻目に言ったように、今は上下みな旅宿の境遇なので、聖人の治めに上下万民を土地に定着させると、定着させないと表裏の違いだ。

一切のことに制度無く、衣服より住居物まで貴賤の階級なき故(ゆえ)、奢りを押さえる規則もない。これ聖人の礼法・制度を立てたのとまた表裏の違いである。

2.武士の旅宿暮らし

制度の事は先ずそのままに末に至って申すべし。先ず旅宿の所を言うなら、諸大名一年替わりに御城下に詰居れば、一年ごとの旅宿である。その妻は常に江戸なる故、常住の旅宿。御旗本の諸士も常に江戸にて、常住の旅宿である。

諸大名の家中も大形その城下に聚(あつま)り居て、おのおのの知行所に居なければ、旅宿なる上、近年は江戸勝手(江戸の藩邸に長く住んで、江戸の生活に馴染んでしまったこと)の家来が次第に多くなった。

これらの如き、総じて武士と言う程の者の旅宿ならざるは一人もなし。

3.箸一本も銭を出す

諸国の民の商工をする者、俸手振(ぼうてふり・荷物を担って売声を立てて歩く商人)や日雇取(ひようとり/日雇い)などの游民(ゆうみん)も、故郷を離れて御城下に集まる者年々いよいよ多くなる。

旅宿も旅宿と心得るときは物入りも少き事成るに、江戸中の者が旅宿と言うは夢にも著(つか)ず、旅宿を常住と心得ている。故に、暮らしの物入り莫大にして、武士の知行は皆商人に吸い取られる。

畢竟精を出して上へ奉公をして、上より賜るは残らず御城下の商人の物となり、を持つ事も成らず、人を持つ事も成らず。の切符(俸禄の支給)の間は物を物にて繋ぎ、或は町人に品を送り届ける事を頼んで、己が身上は人の手に渡る様に今は成り極りたるは、哀しいことではないか。

畢竟は箸一本にてもを出して買い調えざれば事叶わざる故、このようになったのである。」

  

補註

『論語』篇名 文章番号

  1. 奇妙なる妙術もなし…述而20「怪(かい)力(りき)(らん)神(しん)を語らず」
  2. 今の世には闕けたる…為政18「多く聞きて疑わしきを闕(か)き、慎みて其の餘(あま)りを言う」
  3. 礼法の制度を立てる…里仁13「能く譲を以って国を為(をさ)めんか、何か有らん。」

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系〈36〉荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイト運営者が現代語訳。直訳を心掛けた。

その際、尾藤正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )を参照して附した。

政談 目次

1.荻生徂徠とは 2.『政談』とは 3.武士の正規・非正規 4.武士の暮らし 5.武士の貧困

6.医者 7.国替 8.外様と譜代 9.国の困窮 10.歴史に学ぶ 11.貧困の解決策 12.経済活動

13.スピード社会 14.物づくり 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒・与力 19.人材登用

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