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荻生徂徠『政談』17

代官とは 腰抜け役の歴史と役割

時代劇でお馴染みのお代官様は、どんな役目を担っているのでしょうか。徂徠の『政談』(巻三)を通して見ていきましょう。

田舎

代官の歴史

「代官と言う役は重い役である。

その昔、国司(朝廷から諸国に赴任させた地方官)を京都にいる官人が兼任して、その国司には名代を遣わして置いたことから起きて、代官と言う名称になった。

公家の召し使いに国の守(かみ)をさせながら、在京させて召し使い、その国の年貢徴収権の行使を取り計らせた。また、平家の一族である越前の三位(平資盛)、能登守(平教経)、薩摩守(平忠度)等の類は、みなその国へは行かない。

郡司(地方行政官)を在京させれば郡代を遣わし、丞(八省の第三等官)を在京させれば判官代を遣わし、目(さかん)を在京させれば目代(もくだい・国守の私的代行者)を遣わした。

腰抜け役と呼ばれる

それゆえ文官なので、戦国の時分にそれを軽んじて腰抜け役と言い、今は勘定奉行の支配となり、小身者を代官に任命している。

しかも代官の下で働く者は手代と称して、殊の外に賤しき者を附け置いて、年貢の取立てより外に肝心なことはなしと心得ていて、もっての外である。

その身は立身の望みもなく、下劣な役目と言うことになって、しかも小身なので自ら悪巧みをして、お仕置きに逢う人が絶たない。

これを文官とすることも、国の守・介・丞・目などの国司や郡司は、公家の代には文武を兼ねていたが、鎌倉の時分より武家より守護を置いたことにより、武官の職務は守護の方へ渡し、自ら文官になったようである。

田舎

田舎を知らない代官

願わくは二三千石以上の人を申付け、代官の名を改め、下役に今の代官くらい人を申付け置き、武備も自ら備えるようにしたい。

刑罰も軽い事ならその所で執行させ、自ら民を治めることを第一とし、農業の筋のことも、民の知らないことがあれば、これを教え、川除(かわよけ)・堤普請の類も申付け、盗賊・博奕等、邪宗・邪法の類も押さえさせるべきである。

総じて、百姓のおごりは盛んになることより、農業を嫌がり、商人となることが近頃盛んで、田舎は殊の外衰弱している。これにより、博奕・盗賊等が止まることがない。

人殺し等がある時も、その地に奉行がいないので、江戸へ報告するうちに日数が延びて、評議もできないことになり、大方何もかも田舎では出費が多くなることを嫌がり、江戸へ申し出ないので、博奕・盗賊の類の心のままである。

川除・堤普請の類も、現在は代官が江戸に移住するので不案内である。それゆえ、手代任せにするので、手代は江戸の町人と手を結んで、何事も江戸流にしてしまうので費用が広大である。

代官が大身にて、武備を兼ねて備えなければ、飢饉が続き盗賊が盛んである時に至って、これを鎮める方法がない。

鉄砲

天草の乱での代官の活躍

これ以前は天草の陣の時、肥後の川尻という港に、熊本城の細川越中守の蔵があった。

この地の代官である川北九大夫という心得た者が、いつも国産の鉄砲を数多くこしらえて置き、近辺の広さを測らせておいた。

天草に一揆が起こったと通達されるといなや、近辺に一間に一本ずつ杭を打たせ、一本一本に火縄をはさみ、三間に一挺づつ鉄砲を配り、終夜鉄砲を打ち続けた。

一揆どもは籠城の用意に、川尻の米を取ろうして、半ばまで兵船を押し出したけれど、火縄がおびただしく見え、鉄砲の音がしたので、熊本の軍兵が既に早川尻を固めていると思い、半ばより引き返したと、あとに生捕った者が語ったということを聞いている。

その時もし、川尻の米を切り取られたなら天草の兵糧は沢山になったが、城は容易には落ちなかったので代官・川北のやり方は、主人の為、天下の為、勝れた勲功である。

されどもその時分も、この様なことは功に立たない。川北が後に城を攻める時、一番乗りをしたので千石になった。されば、代官は武備を備えずしてはかなわないのである。勘定の方は勘定奉行の下知を受け、役儀の子細は御老中か若老中等の直の配下とし、重い役に定めたいことである。」

  

政談の現代語訳について

当サイトの政談の現代語訳は、吉川 幸次郎, 丸山 真男, 西田 太一郎, 辻 達也 (著)『日本思想大系〈36〉荻生徂徠 (1973年) 』(岩波書店、1973年)をもとに当サイトの運営者が現代語訳しました。

その際、荻生 徂徠 (著), 尾藤 正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」 (講談社学術文庫) 』(講談社、2013年)も参考にさせていただきました。

荻生徂徠・政談

1.荻生徂徠とは/2.政談とは/3.譜代と出替り奉公人/4.旅宿暮らしの武家

5.武家は田舎に居住すべし!/6.江戸の医者の特徴/7.城下町居住の理由

8.外様と譜代の違い/9.貧困問題について/10.歴史に学べ!

11.貧困を救う道/ 12.金で物を買う将軍/13.スピード社会・江戸

14.スピード重視の家作り/15.衣服の制度がない/16.上に立つ者の品格

17.代官とは/18.御徒・与力とは/19.人の器とは

荻生徂徠・政談

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