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荻生徂徠『政談』12

江戸時代の奇妙な?経済活動

商人の天下になった江戸時代

幕府から武士まで皆商人に吸取られていく江戸の実態を、荻生徂徠政談』において見てみましょう。

荻生徂徠『政談』巻之二

1.買い物する公儀

「公儀の身の上も同じく旅宿の仕掛けである。その子細は、何も彼も皆その物を御買上げして御用を調えられることによって旅宿だ。

総じて日本中国共に天下を治められる上では、御買上げと言う事は無い事である。大名などの村里、他国の御城下に勤番して居るのは、旅宿暮らしなれば買上げは尤ものこと。

天下を治められる上は、日本国中は皆御国のもの。何も彼も皆その物を直に御用となさる故(ゆえ)、御買上げと云うことは無い筈。物を買うと言うは、元来人の物なる故、唯は取れぬ故、代わりを出してとることだ。

日本国中は皆我国なれば、何も彼も日本国中より出るものは我が物なるを、人の物と思召して代金を出して買調えること、大いなる取違いだ。

2.家康公時代を引きずる

これは天下を治めても、やはり大名の仕組みである。その起こり、(家康公関東)御入国の時分はいまだ大名にいらっしゃって、関ヶ原御陣より大坂御陣迄は天下の諸大名は彼の方より帰服し奉ったけれども、いまだ天下を治められたと言う名目は附けられず、御制度を定めることができなかった。

大坂御陣の翌年(元和二年,1616)東照宮薨去(こうきょ)されたならば、天下を治められても、制度を立たせる間がなかった。故に時が過ぎ、それ以後に至っては、執政の面々皆不学にして、日本中国の古法に闇(くら)いので、やはり大名であった時の仕方を是(ぜ)と思って、今でも受け継いで政治を行うことにより、このような誤りが有る[1]。

3.商人の天下

されば御料(幕府領)・私領ともに一年の年貢の米を食料の分だけ遺し、その外は悉く売払いにして、これにて諸国の物を買調て、日夜朝暮の用事を足すこと、これ今の武家の行状でだ。金にて諸事の物を買調えねば一日も暮らせぬ故、商人なくては武家は立たない。諸事の物は皆商人の手にあり。

それを金を出し、貰い請けて用を足すので、値段の高下の押問答はあれども、望まないのに無理に買取ることはないので、畢竟値段は商人の言い値次第[2]にて、いくらにても急なる時は買わねばならぬこと、これ武家皆旅宿の境遇だからだ。

故に商人が利倍(利子が利子を生む)を得ること、これ百年以来ほど盛んなることは、天地(幕府)開闢(かいびゃく)以来異国にも日本にもなきことである。

4.米より金が大事の武家

その子細は書籍の面(おも)て、近きは長崎表の唐物(舶来品)の値段にて知れる事。

これより諸国の商工御城下に聚(あつ)まって、町の住居夥しく成り、北は千住より南は品川迄立ち続くことにより、如何様のことにも手詰まりになる事なく、何程大壮なことも忽ちの中に調って、自由便利なこと言い尽くせない。

このように御城下は諸事に付き自由なる所の上に、せわしなき風俗と、制度無きと、この二つを加えるので、武家の輩はを尊ぶ心なくなり、金を大切なる物と思い、これによって身上を皆商人に吸取られて、武家は日々困窮しているのだ。」

  

補註

  1. 誤りがある…『論語』学而08「過てば則ち改めむるに憚(はばか)ること勿(なか)れ。」
  2. 商人のいい値次第…冬衣売出し広告(明治)「正札附掛直なし」参照のこと。

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系〈36〉荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイト運営者が現代語訳。直訳を心掛けた。

その際、尾藤正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註の『論語』は当サイト独自に、平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )を参照して附した。

政談 目次

1.荻生徂徠とは 2.『政談』とは 3.武士の正規・非正規 4.武士の暮らし 5.武士の貧困

6.医者 7.国替 8.外様と譜代 9.国の困窮 10.歴史に学ぶ 11.貧困の解決策 12.経済活動

13.スピード社会 14.物づくり 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒・与力 19.人材登用

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