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荻生徂徠『政談』16

上に立つ者の品格

雀

ここでは、徂徠の『政談』(巻三)から上に立つ者(執政の臣)の品格について見ていきたいと思います。

言葉づかいと容貌を慎むべし

「執政の臣(老中)は、言葉づかいと容貌を慎み、下の者に向かって不埒なことを言わず、無礼ないことを 第一とするべし。

聖人の深い戒めである。おろそかに心得るべきではない。 世俗の考えでは、才智さえあれば言葉づかいと容貌は構わなくても差支えないだろうと思っているが、左にはあらず。 執政の臣は外の役儀と違って古の大臣の職だ。

「赫々(かっかく)たる師尹(しいん)、民具(とも)に爾(なんじ)をみる」(詩経・小雅・折父之什)

(権勢がある師尹(しいん・周の天子の師)は、民皆そなたを仰ぎ見る[註1])

と言う詩経の文は、礼記の大学篇にも引用されていて、聖人の道は甚だ重いことだと言われている。 」

雀

重々しい人がいなくなった

「執政の臣は重い職分なれば、その人の言葉づかい・振る舞いを、下から万人までが常に気をつけて見ている。よって一言一事も世間が評判し、遠国までも伝え聞こえて天下に隠れるところがない。

されば役目を重んじ、上の御為を大切に思っているとしたら、言葉づかいと容貌に気をつけ、 慎まずして望みどおりになることはない。

元禄の頃までは、いずれもこのようなたしなみがあって、言葉づかいと容貌も見事だったが、 正徳の頃よりこの風は衰えて、今は重々しき身持ちの人がいなくなったと聞いている。 」

才智ばかり働かせようとする人

「その事の起こりについて、無学な人の考えは迂遠なことを嫌い、近道して御用を計らうし、とりわけ才智ある人はその才智を働かせようとするので、容貌・言葉づかいの慎みが崩れるのである。

去れども執政の職は、自分の才智を働かせず、下の才智を取り用いて、下を育てて、御用に立てる者を多く出るようにすることが職分の第一である。 自分の才智を働かすことは、役人の職で執政の職分ではない。

どれ程の才智を働かせても、下の者の才智を用いない時は自分の才智ばかりで足ることではない。 そうであるのに、手前の才智を働かせることは、執政の臣の上ではかえって職分の筋違いで、 つまり不忠になり、これを知らないのは無学の人の過ちである。 」

外を繕っているという勘違い

「言葉づかいと容貌をたしなむことは、我が身を重々しくこしらえて、外を繕うように無学の人は思うけどこれはそうではない。 職分が重ければ、身持ちは重々しいことは、第一、当然のよいことである。

このような人を重んじ敬うことは、これまた自然の道理である。人が重んじ敬う人を上に据えて下知するときは、下からこれを従うのはこれまた自然の道理である。

これにより役目が重ければ言葉づかいと容貌をたしなむことは古よりこのようにあることで、全く外を繕うことではない。

言葉づかいと容貌を粗末にして、下へ向かって無礼をする人は、下の才智も知らず、返って煩わしくなるので、このような人には下の者は心を服さない。だから必ず政務の滞りとなり上の考えることの筋も下へ行き渡らない。」

  

政談の現代語訳について

当サイトの政談の現代語訳は、吉川 幸次郎, 丸山 真男, 西田 太一郎, 辻 達也 (著)『日本思想大系〈36〉荻生徂徠 (1973年) 』(岩波書店、1973年)をもとに当サイトの運営者が現代語訳しました。

その際、荻生 徂徠 (著), 尾藤 正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」 (講談社学術文庫) 』(講談社、2013年)も参考にさせていただきました。

荻生徂徠『政談』

1.荻生徂徠とは/2.『政談』とは/3.武士の正規・非正規雇用/4.武士の江戸暮らし/5.武士の貧困

6.江戸の医者/7.国替を命じる理由/8.外様と譜代の違い/9.国の困窮/10.歴史に学ぶ大切さ

11.貧困問題の解決策/12.奇妙な?経済活動/13.スピード社会/14.江戸の物づくり

15.江戸時代の装束/16.上に立つ者の品格/17.代官とは/18.御徒・与力とは/19.人の器とは

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