解読文
原文
髪(かみ)・化粧(けしやう)の事
女は、つねに心がけて髪(かみ)をけづり、またけはひをして、乱(みだ)れぬやうになすこそ、肝要(かんえう)なれ、これあながち浮(うき)たるこゝろより然(しか)るにあらず
髪(かみ)・けはひは、夫(をつと)に連(つれ)そふほどの礼(れい)を守(まも)るにて、とり乱(みだ)しぬるは、親(おや)夫(をつと)へ対(たい)し、不礼(ぶれい)なり
しかれとも、すゐぶん古風(こつう)の品(しな)・かたちよきを守(まも)りて、目(め)に立(たつ)ことく、はでにすべからず
時の流行(てうかう)にうつるも、余技(よぎ)なけれど、遊女(ゆうぢよ)めきたるいやしき造(つく)りはすべからず
現代語訳
髪・化粧の事
女は常に心がけて髪を整え、また化粧をして乱れぬようにすることこそ肝要である。
これはあながち浮いた心からそうするのではない。髪・化粧は、夫に連れ添うほどの礼を守ることなので、取り乱すことは、親・夫に対し無礼なのだ。
しかしながら分に応じて、昔のように品格やかたちをよく守って、目立つように派手にしてはならない。時の流行に移るのもやむを得ないけれど、遊女ぽい、いやしい造りにしないこと。
解説
江戸時代の女性の髪・化粧は、本書を読むと自己表現の手段ではないことが窺えます。
『論語』(泰伯04)[文献]曰く「容貌を動かしては斯(ここ)に暴慢(ぼうまん)を遠(とほ)ざく、顔色(がんしょく)を正しては斯に信に近づく」(姿かたちをきちっときめると、人のあなどりから遠のきます。顔の表情を整えると、人の信頼に近づきます)
参考文献
平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年 )
史料情報
- 表題:女大学栄文庫
- 年代:嘉永4. 8.(1851)/栄久堂 山本平吉 梓
- 埼玉県立文書館収蔵 小室家文書2342
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女大学
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