解読文
近江八景(あふみはつけい)并(ならび)和歌(わか)
唐崎(からさき)の夜雨(よるのあめ)
夜の雨に おとをゆづりて 夕かぜを よそに名たつる からさきの松
矢橋(やばせ)の帰帆(きはん)
真帆引て やばせにかへる 船はいま うち出のはまを あとの追風
粟津(あはづ)の晴嵐(せいらん)
雲はらふ あらしにつれて もゝ船も ちふねも浪の あはづにぞよる
此良(ひら)の暮雪(ぼせつ)
ゆきはるゝ ひらのたかねの 夕ぐれは 花のさかりに すぐる頃かな
石山(いしやま)の秋月(あきのつき)
石山や 鳰(いほ)の湖(うみ)てる 月かげは あかしもすまも 外ならぬかは
勢多(せた)の夕照(せきせう)
露しぐれ 守やまとほく すぎ来つゝ 夕日のわたる 瀬田の長はし
堅田(かたた)の落雁(らくがん)
峯あまた こえて越路に まづちかき かたゝになびき おつる雁かね
三井(みゐ)の晩鐘(ばんしよう)
おもふその あかつきちぎる はじめぞと まづきく三井の いりあひの鐘
解説
用語
- 鳰(にお):カイツブリの古名。
- 越路(えじ):北陸道の古称。
概要
『女大学』の巻頭ページでは歴史上の見習いたい女性に続き、近江八景と和歌を紹介しています。
近江八景は琵琶湖岸の美しさを代表する八つの景勝地。東海道_旅行用心集(文化七)に描かれています。和歌は中国湖南省北部・洞庭湖における瀟湘[註]八景(しょうしょう-はっけい)にちなんで明応九年(1500)、関白近衛政家・尚通父子が選定したと言われています。解読文の和歌は史料右上→右下→の順で掲載しました。
補註
碣石瀟湘無限路(せっせき しょうしょう むげんのみち)@張若虚「春江花月夜」_増野弘幸 『研究資料漢文学第3巻 詩Ⅰ』(明治書院、2003年)
史料情報
- 表題:女大学栄文庫
- 年代:嘉永4. 8.(1851)/栄久堂 山本平吉 梓
- 埼玉県立文書館収蔵 小室家文書2342
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女大学
1.概論 2.列女伝 3.近江八景と和歌 4.手習い 5.洗濯 6.お稽古
7.裁縫 8.髪・化粧 9.子育て 10.身分格差 11.音楽活動