解読文
原文
子(こ)を育(そだ)つる事
凡(およ)そ子(こ)をそたつること、心得(こゝろえ)あるべき也
女はたゞ愛(あい)にのみおほれて、教(をし)ふへきことも教(をし)へず、わが儘(まゝ)気随(きづゐ)にそたつるが多(おほ)し
斯(かく)の如(ごと)くなれば、その子成長(せいちやう)して、かならず不孝(ふかう)也
稚(おさな)き時より、よく/\教(をし)へ諭(さと)し、仮(かり)にも偽(いつはり)を教(をし)へす、正(たゞ)しくおほし立べし
孟母(まうほ)だ三遷(さんせん)の意味(いみ)などを心にかけて、忽(ゆるかせ)にすべからず、人は生(うま)れ付(つき)といへど、大かたは、育(そたて)かたによりて、善(よき)にも悪(あしき)にもなるとしるべし。
現代語訳
子を育てる事
およそ子を育てることは、わきまえておくべき事柄である。女はただ愛にのみに溺れて、教えることも教えず、我儘・気ままに育てる人が多い。
このようになれば、その子が成長すると必ず親不孝になる。稚(おさな)い時より、よくよく教えへ諭し、かりにも偽りを教えず正しく大きく育てること。
孟母三遷(もうぼさんせん)の意味などを心にかけて、ゆるがせにしてはいけない。人は生まれ付きと言えど、大方は育て方によって善くも悪くもなると知るべし。
解説
孟母三遷はご存知の方も多いと思いますが、子の教育には環境を選ぶことが大切であるということです。孟子の母が住居を、最初は墓所の近くに、次に市場の近くに、さらに学校の近くにと三度遷うつしかえて、孟子の教育のためによい環境を得ようとはかった故事です[註1]。
『論語』(李氏13)に「君子の其(そ)の子を遠(とほ)ざく」(君子は自分の子供を引き離す)[註2]
補註
- 新村出 著, 編集『広辞苑第六版』(岩波書店、2008年)
- 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年 )
史料情報
- 表題:女大学栄文庫
- 年代:嘉永4. 8.(1851)/栄久堂 山本平吉 梓
- 埼玉県立文書館収蔵 小室家文書2342
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女大学
1.概論 2.列女伝 3.近江八景と和歌 4.手習い 5.洗濯 6.お稽古
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