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女大学11

江戸時代の女性の音楽活動 三味線は是か非か

江戸時代の教科書『女大学』から、音楽活動の心得などについて紐解きます。

史料

女大学_江戸時代の女性の音楽活動

※無断転載禁止

現代語訳(枠内)

端唄(はうた・三味線の小唄)簫(しょう・笛の一種)など、色っぽい振る舞いを見聴きすることを戒めよ。これを覚えた現在は雅楽と言うものもなく、能・囃子(はやし)は女子のすべき事でもない。

今の世の慣わしとして三味線の技をせめて知らねば、人の中にいても何となく気分的に圧倒されるので、見聴きの全てを習うのもまた妨げない。

ただ乱れないこともって淑(よ)しとすべきである。このようなことを言えばこの本に古えの教えが無いように見えるかもしれないが、決してそうではない。

心ない婦女子はこれを見て、この本は下賤だから今日の法規(のり)にならないなど浅はかに思って、その後の教えもいたずらに見過すことがあってはいけないと思ったので、いささか愚意(ぐい)を述るもまたの老婆心である。

>>原文(史料解読文)

解説

本文の古の教えは、『論語』においては以下などを参照できます。

  1. 「鄭声(ていせい)を放つ」「鄭声は淫(いん)」(衛霊公11)
  2. 「鄭声の雅楽を乱るを悪(にく)む」(陽貨18)

儒教において音楽は欠かせません。鄭声は、中国春秋時代の鄭国の音曲。みだらなものでした。これが当時「雅楽」を乱していたようです。雅楽は正統の音楽のことで、2.のいうところの雅楽は舜の楽といわれる「韶」(しょう)の類[文献1]。

鄭国の音楽は『詩経』国風・鄭風において、今なお漢詩として鑑賞できます。鄭風は乱れているというか、豈無他士(他に男がないわけじゃなし)[文献2]久宝留理子的なパンチのある恋愛詩が多いです。

春秋時代の鄭、江戸時代の能囃子や三味線にせよ、音楽を顧みれば当時の「世の慣わし」が見えてくる一面もあるように思います。

補註

  1. 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )
  2. 高田眞治『詩經上 新装版 漢詩選1 』(集英社、1996年)鄭風「褰裳」334-336頁

原文(史料解読文)

夜陰(やいん)といえども、用(よう)あらば外(と)へも出(いづ)べく、また謡唄(はうた)簫(じやう)なりの仇めきたるを見聴(みきゝ)ことを戒(いまし)む

これ得(えた)当時(たうじ)、雅楽(ががく)といふものもなく、能囃子(のう-はやし)は女子(によし)のすべき事にもあらず

今の世(よ)の慣(なら)はしとして、三味線(さみせん)の一手(ひとで)だにしらねば、人の中にても何となく気(け)おさるゝやうになれば、見聴(みきゝ)のみなは、習(なら)ふもまた妨(さまたけ)なかるべし

たゞ乱(みだ)れざるを以(もつ)て、淑(よし)とすべきなり、かくいはゞ本文(ほんもん)古(いにし)への教(をし)へを無(なみ)するやうにあれど、決(けつ)して然(さ)にあらす

心(こゝろ)なき、婦女子(ふぢよし)是(これ)を見て、こは下賤(げせん)今日(こんにち)の法規(のり)にならじなんど、浅はかに思(おも)ひとりて、其餘(そのよ)の教(おし)へをもいたづらに見過(みすぐ)すことのあらんかと思(おも)ふが故、いさゝか愚意(ぐい)を述(のぶ)るもまた例(れい)の老婆心(らうばしん)なり

史料情報

  • 表題:女大学栄文庫
  • 年代:嘉永4. 8.(1851)/栄久堂 山本平吉 梓
  • 埼玉県立文書館収蔵 小室家文書2342
  • 当サイトは同館から掲載許可を頂いてます。
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