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女大学その12

江戸時代の結納 方法や心得など

結納とは?仲人含めて、江戸時代の教科書『女大学』を紐解きながら解説します。

史料

江戸時代の結納_女大学

※無断転載禁止

現代語訳(枠内)

さて、この本にもある通り、女子は父母の命と媒酌(ばいしゃく:なこうどの意)がなければ、男女交わらず親しまず、これを第一の掟にして女子の慎みが極めて肝要の条項である。

およそ、この一つを堅く護(まも)る心があれば、それを大切にして舅姑がよく言うようなことは必ずする。そうすれば媒酌がある。

父母が許して嫁がせようとする時、まず結納として、そのしるしを受ける。これにも上中下、何段にも差別があって一様ではない。とかく身の程を顧み、それより内側であることをよしとすべきだ。

結納を受ける日、女子はお歯黒するがこれも現在は大方やっていない。また結納の進物は五種・七種であるが、これも身の程によるべきである。しかし余りに倹約するのもに欠く[]ものだ。

およそ婚姻は男女一生の大礼(たいれい:最も大切な儀式)である。男は家の相続すべき子をもうける為、女子は生涯連れ添う夫を定めることである。よって、これより重い礼はなく、互いに謹んで、粗略にしてはいけない。

>>原文(史料解読文)

補註

  • 余りに倹約するのも礼に欠く…『論語』八佾18「女(なんじ)は其の羊を愛(をし)む。我は其の礼を愛む」(おまへは(告朔(こくさく)の礼に用いるいけにえの)羊を惜しむ。わたくしにはその礼が惜しい)[文献1]

解説

1.結納とは

結納(ゆいのう)は、日本古来のしきたりで、家と家とが結婚によって新しく結ばれる、そのための儀式でした。

昔は結納を「ユイレ」(申込み)または「ユイノモノ」ともいい、「ユイノモノ」とは両家が婚姻関係を結ぶにあたり婿(むこ)方から嫁方へ持参するのことで、それと共に飲食して祝うためのものでした。その起源は娘をもらう代わりに、お金や家畜などを娘の父親に届けたという古い習慣の名残ともいわれています。

2.仲人とは

江戸時代以前、結婚がまだ「村内婚」のころ、年ごろの男女は村内で相手を見つけ、双方の親が承認すれば婚姻が成立しました。しかし村外から相手を見つけ、江戸時代以降、遠方からの「嫁入り婚」が行われるようになると、家と家との仲介役・仲人(なこうど)が必要になってきました。

逆にいえば『女大学』曰く、昔は「婿入りの式と言うことは多く見えたけれど、嫁入りの式の事は見えない」。かくして本書の結婚式は「婿入りの式」で執り行われます。

また本来、仲人は縁談から結婚式まで世話をする人、媒酌人は「挙式当日の仲人」ということになっています[文献2]。

3.史料

史料は、右頁の挿絵が結納で、座敷の二人が新婦の父と媒酌(仲人)でしょう。そこに外から進物として、酒樽や鯛二匹などを運んでいる男性ら(仲人一行)が見えます。左頁の挿絵が結婚式です。

お歯黒は『広辞苑』によれば「江戸時代には結婚した女性は全て行った」としていますが、本書『女大学』では「現在は大方やっていない」。

4.現在

現在の結納の方法は、地域によって違いがあります。関西では一般的に、男性側から結納品を贈るしきたり(いわゆる片道型)なので、結納を「納める」という言葉が使われます。一方、関東では男女双方からという形を取るので、結納品を「交わす」ことが多いようです。

参考文献

  1. 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年 )
  2. 飯倉晴武『日本人のしきたり』(青春出版社、2003年)「第四章 結婚・婚礼の作法」108-112頁

原文(史料解読文)

○さて、本文(ほんもん)にもある通(とほ)り、女子(によし)は父母(ふぼ)の命(めい)と媒妁(なかだち)とにあらざれば、交(まじは)らず、親(した)まず、是(これ)第一(たいゝち)の掟(おきて)にして、女子(によし)の慎(つゝし)み専要(せんえう)の箇条(かじう)なり

凡(およ)そこの一事(いちじ)を堅(かた)く護(まも)る心(こゝろ)あるほどなれば、夫(それ)を大切(たいせつ)になし、舅姑(しうと/\め)によく事(かう)ふるが如(ごと)きは、必(かならず)なるものなり、されば媒妁(なかたち)あり

父母(ふぼ)許(ゆる)して、嫁(よめ)せんとする時(とき)まづ結納(たのみ)とて、そのしるしを受(うく)る、是(これ)にも上中下何(なん)だんにも差別(さべつ)ありて、其(その)さま、一般(いちやう)ならず

兎角(とかく)分限(ぶんげん)を顧(かへり)み、夫(それ)より内場(うちば)になすを善(よし)とすべし

この結納(たのみ)を受(うく)る日(ひ)女子(によし)鉄漿(かね)を含(ふく)む、是(これ)も当時(たうじ)は大(おほ)かた然(しか)らず、また、結納(たのみ)の進物(しんもつ)も或(ある)ひは、五種(ごしゆ)七種(しちしゆ)也

其(その)分限(ぶんげん)によるべし、余(あま)りに倹約(けんやく)なるも礼(れい)に欠(かく)る也、凡(およ)そ婚姻(こんいん)は、男女一生(いつしやう)の大礼(たいれい)也

男は家(と)相続(さうぞく)すべき子(こ)を設(まう)くる為(ため)、女子(によし)は、生涯(しやうがい)連配(つれそふ)夫(をつと)を定(さだ)むるなれば、生涯(しようがい)の礼(れい)、これより重(おも)きはなし、互(たがい)に慎(つゝし)みて、麁略(そりやく)なるべからず

史料情報

  • 表題:女大学栄文庫
  • 年代:嘉永4. 8.(1851)/栄久堂 山本平吉 梓
  • 埼玉県立文書館収蔵 小室家文書2342
  • 当サイトは同館から掲載許可を頂いてます。
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女大学

1.概論 2.列女伝 3.近江八景と和歌 4.手習い 5.洗濯 6.お稽古

7.裁縫 8.髪・化粧 9.子育て 10.身分格差 11.音楽活動

12.結納 13.結婚式 14.安産 15.マタニティケア 16.親の教え

17.親の心得 18.見た目より心

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