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女大学その14

江戸時代の安産の秘訣その1 妊娠中の過ごし方

江戸時代の教科書『女大学』から安産の秘訣として、妊娠中の過ごし方を見ていきます。

史料

女大学_安産の秘訣その1

※無断転載禁止

現代語訳(枠内)

さて夫婦が睦まじく、月日を送り、妊娠することあったら、慎みが肝要である。

中国の書物にも胎教(たいきょう:妊婦が胎児のため修養につとめること)をする様々な法があるが、これは下賤には行い難いこともある。ただ身持ちを大切にして起き臥(ふ)すとともに、怠けて弱くならず第一男女の交わりをしてはいけない。

冷たいものを食べてはいけない。言うまでもなく水を飲んではいけない。食べ物医者に問い、よいと言われたものを食さなければならい。

麝香(じゃこう・香料の一種)が入ったを服してはならない。その上、事あるごとに行き届かない事もあるけれど、目に悪しき色を視(み)ず、耳に怪しき声を聴かず、鼻に汚れた臭いかいではいけない。

また本など見るといっても、ふざけたものを見ない。これは聖賢の教えである。女大学・小学のたぐい、或は孝行な子・列女の伝、そのほか全て教えなどが書かれたものを視(み)て、その場限りの物語、人の狂死、その外、縁起の悪いことは聴かないようにすること。

これは別段、物忌(ものいみ)をしているわけではない。子が胎内にあるときは、いまだ身体が整わず、この折柄、何であれ縁起が悪いものに触れれば、自然にそれに影響されて不幸にもなり、又は悪人となる事もある。

およそ人として子を思わない者はいない。子を思う本意は、その子が健やかに成長し、己以上の身の上になって、栄ゆく末を見ようと願うようになる、ということである。

親が愚かでまた性悪があるならば、どうして栄ゆく末を見ことができようか。たとえ、どんなに慎みを守っても十か月に足らない程の間のことである。その子の生涯の長さを思い比べれば、たやすいことだろう。

>>原文(史料解読文)

解説

当時の医学的な知識に則って、妊娠中に口にしてはいけないものや薬、本は何を読むべきかなどかなり具体的に示しています。

原文(史料解読文)

○さて、夫婦(ふうふ)睦(むつ)ましく、月日(つきひ)を送(おく)り、懐胎(くわいたい)することあらば、其(その)慎(つゝし)み肝要(かんよう)也

唐土(もろこし)の書物(しよもつ)にも、胎教(たいけう)してさま/゛\の法(はふ)あれど、是(これ)はた下賤(げせん)には行(お)なひ難(がた)きことあり

只(たゞ)身持(みもち)を大切(たいせつ)にして、起臥(おきふし)ともに惰弱(だじやく)にせず、第一男女の交(まじは)りすべからず 冷(ひゆ)るものを食(くふ)べからず

況(いわん)や水(みづ)を呑むべからず、食物(しよくもつ)は医者(いしや)に問(とひ)て、その宜(よろし)きを食(しよく)すべし 麝香(じやかう)の入(いり)たる薬(くすり)を服(ふく)すべからず

其上(そのうへ)事毎(こと/゛\)には行届(ゆきとゞ)かぬ事もあるべけれど、目(め)に悪(あし)き色(いろ)を視(み)ず、耳(みゝ)に怪(あや)しき声(こゑ)を聴(きか)ず

鼻(はな)に汚(けが)れたる臭(か)をかぐへからず また本(ほん)など見るとても、戯(たわ)ふれたるを見(み)ず、聖賢(せいけん)の教(をし)へり

但(たゞ)し、女大学(をんなだいがく)小学(せうがく)のたぐひ或(ある)ひは、孝子(かうし)列女(れつぢよ)の伝(でん)その外(ほか)都(すべ)て教(をし)へことなど書(かい)たるものを視(み)、

仮初(かりそめ)の物語(ものがたり)にも或(ある)ひは人の狂死(わうし)その外、不祥(ふしやう)のことはきかぬやうにあすべし 是(これ)あながち、もの忌(いみ)するにあらず、子(こ)胎内(たいない)にあるときは、いまだ身体(しんたい)髪膚(はつふ)とゝのはず、

この折柄(をりから)何(なに)にすれ不祥(ふしよう)のみに触(ふ)るときは、自然(おのづから)それに肖(あや)かりて、愚不肖(ぐふせう)にもなり、又は悪人(あくにん)となる事もあり

凡(およ)そ人として、子(こ)を思(おも)はぬものなし、子(こ)を思(おも)ふ本意(ほんい)は、その子(こ)、健(すこやか)に成長(せいちやう)し、

己(おのれ)より倍(まし)たる身(み)のうへともなりて、栄(さか)ゆく末(すゑ)を見んと願(ねが)ふなるに、愚(おろか)なるかまたは、その性悪(せいあく)あらば、何(なに)とて栄(さか)ゆく末(すゑ)を見るよしあらん

たとへ、何(なに)ほと慎(つゝしみ)守(まも)るとも、十月(とつき)に足(たら)さる程(ほど)の間(あひだ)なり その子の生涯(しやうがい)の長(なが)きを思ひくらぶれば、輒(たやす)きことなるべし

史料情報

  • 表題:女大学栄文庫
  • 年代:嘉永4. 8.(1851)/栄久堂 山本平吉 梓
  • 埼玉県立文書館収蔵 小室家文書2342
  • 当サイトは同館から掲載許可を頂いてます。
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