解読文
原文
一 旅行(りかう)は、兎角(とかく)暑寒(しよかん)をよく凌(しのく)べきなり、就中(なかんづく)夏(なつ)を心付へし、先(それ)暑中(しよちう)は、人々の脾胃(ひゐ)ゆるみて、食物(しよくもつ)を消化(せうくわ)しがたし
因而(よつて)しらぬ魚(うを)、鳥(とり)、貝類(かいるい)、筍(たけのこ)、菌(きのこ)、瓜(うり)、西瓜(すいくわ)、餅(もち)、強飯(こはめし)の類(るい)多(おほ)く喰(くら)ふべからず
夏(なつ)は食傷(しよくしやう)より、寉乱(くわくらん)に発(はつ)し、難義(なんぎ)に及ふことあり、春(はる)秋(あき)冬(ふゆ)は夏(なつ)に準(しゆん)じ知べし
清輔 ゆくまゝに 花の梢となりにけり よそに見へつる 峯のしら雲
現代語訳
旅行中は兎角、暑さ寒さをよくしのぐこと。とりわけ夏は注意すること。夏の暑い時期は、人々の胃腸がゆるんで食物を消化しがたい。
よって知らない魚や鳥や貝類、筍、きのこ、瓜、スイカ、餅、赤飯のたぐいは多く食べてはいけない。夏は食あたりにより、吐き気や下痢などを発し難儀に及ぶことがある。春秋冬は、夏に準じて対処すること。
解説
くずし字
旅行 | 就中 |
りょこう | なかんづく |
「旅」が難読。 | 「とりわけ」の意。 |
鳥 | 夏 | 冬 |
動物の名前参照。 | 「度」のくずし字に似ている。 | 「夏」とセットで覚えておくとよいです。 |
用語
- 脾胃(ひい):脾臓(ひぞう)と胃腸。消化器系の内臓。はら。
- 強飯(こわめし):もちごめ蒸した飯。おこわ。
- 食傷(しょくしょう):食あたりを起こすこと。
- 寉乱(かくらん):夏に起きやすい、激しい吐き気・下痢などを伴う急性の病気
MEMO
史料は『旅行用心集』道中用心六十一ヶ条の第七条。旅行中、それが夏だった場合、食べてはいけないものを細かく挙げています。魚や鳥などは、はしかを患った時にも忌むべきものとして挙げられています。
補註
藤原清輔(ふじわらのきよすけ)[1104~1177]平安後期の歌人・歌学者。顕輔(あきすけ)の子。六条家の中心人物で、俊成と並び称された。二条天皇の命で「続詞花集」を撰。著「奥義抄」「袋草紙」、家集「清輔朝臣集」など。
史料情報
- 表題:旅行用心集/文化7(1810)
- 八隅芦庵 著、彫工:佐脇庄兵衛・同 伊三郎、出版元:須原屋茂兵衛・須原屋伊八
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3361
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旅行用心集
1.概要 2.東海道 木曽路・3.そのⅡ 4.旅の前日 5.持ち物
6.チェックイン・7.アウト 8.食べ物 9.毒虫 10.ソリ
11.雪かき道具 12.頭巾、帽子 13.履物・14.かんじき、下駄