解読文および解説
第十七図
○野木瓜 (ムベ/ラヤニア) 林氏第二十四綱、雌雄花株同開ク
郁子とも書き、アケビ科の常緑蔓性低木。本州中南部~沖縄、東アジアの山地に生える。葉は柄が長く、五~七枚の革質の長楕円形からなる。雌雄同株で、初夏に葉腋(ようえき,葉の付け根)から、雄花と雌花別々の花序(かじょ,枝の上の花の並び方)をつける。雌花には三個の子房と不稔のおしべがある。
- 莟、雌花、三卵巣、苞、雄花
第十八図 ○林娜氏二十四綱
リンネとは
林娜はスウェーデンの植物学者であるリンネ(Linne,Carl von/1707-1778)のこと。幼少の頃から花を好み、「小さな植物学者」と呼ばれました。1742年(寛保二)三五歳よりウプサラ大学植物学教授。後に学長として活躍、リンネの考えを普及しました。
『自然の体系』とは
リンネ著『自然の体系』(1735/享保)は、近世の動植物分類学の基礎を置いた書。リンネが植物分類の標準として重視したのは、花、特に雄しべや雌しべの数や形態でした。
同書では、全植物界が綱(こう)に分けられています。第二三綱までは花を備えた植物、最後の一綱は花を備えていない植物で、菌類、藻類、コケ類などが含まれます。すなわち雄しべの性質で綱(こう)に分け、雌しべ目を分けた雄雌蕊(しゆずい)分類法によって注目されました。
しかし、こうした一部の性質だけで分類することは人為的な分類であり、植物の真の類似や相違にもとづく自然分類からは遠いものでした。彼自身もこの点を認めており、したがって彼の創設した綱や目の多くは、現在は用いられていませんが、種(しゅ)の検索には便利さがあります。
また、リンネの独創ではありませんが、種(しゅ)の命名法として小名(二名法)を用い、属名に種の特徴を示す一語を合わせて、二語で種名をあらわしました。これが学名のはじまりで、学名をただ一つの正名とし、他の呼称を異名とし、一種一名と定めることになりました。
後の国際会議で植物名はリンネの『植物の種誌』(1753)から、動物名は『自然の体系』第一〇版から学名を採用することが決められました。然しながらリンネの動物の分類は植物の分類に比べて成功していません。ある点ではアリストテレスより後退していますが、ヒトとサルを一つにして霊長目としたことは注目されます。
参考文献
- 大村陽二郎「リンネ」『世界大百科事典 改定新版29』(平凡社、2007年)
- 真船和夫「自然の法則」『世界名著大辞典 オリジナル新版5』(平凡社、1987年)
史料情報
- 表題:植学啓原 3巻合綴
- 年代:天保5(1834)/宇田川榕庵著、菩薩樓蔵版
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3954
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植学啓原
1.宇田川榕庵 著 2.根や球根 3.根の断面、シダ 4.コケやキノコ