解読文
原文
夏(なつ)の原野(のはら)に生る毒草(どくそう)、毒虫(どくむし)数(かず)多ければ、挙(あけ)て尽(つく)すへからず、就中、蝮(まむし)斑猫(はんぬう)の大毒なることは皆人の知ところ也
其外、諸虫の中、無毒虫(どくなきむし)にても折に触(ふれ)て、毒あるものにあふ時は蛇蠍(しやかつ)にもをとらぬものありよつて蚋(ぶと)蚊(か)虻(あぶ)蜂(はち)蟻(あり)蛄蟖(けむし)蜘蛛(くも)、蛭(ひる)の類(る)ひに至る迄、用心すへきことなり
温熱(うんねつ)の地は、暑湿(しよしつ)別而甚しく、毒草異虫も多き故、旅人つかれて山野(さんや)に休むとも、是等の心得あるへきことなり、毒虫(とくむし)にさゝれたる妙薬等は末(すへ)のくすりの所にあり
図説
唐斑猫(からはんみやう)色微黄、和斑猫(わのはんみやう)、色るり也/蜥蝪(せきてき)和名とかけ、石龍子、山龍子、同物/烏蛇(うしや)、からすへひ/蝮(ふく)はみ又、反鼻蛇(はんひしや)、まむし、色黒黄なり、種類多し、大毒あり
現代語訳
夏の原野に生る毒草、毒虫の数は多いので挙げ尽くすことができない。とりわけ蝮(まむし)や斑猫(はんみょう:ハンミョウ科の昆虫)が大毒であることは、全ての人の知るところである。
そのほか諸虫の中、毒が無くても折あるごとに毒を発する虫に合った時は、蛇と蠍(サソリ)にもを劣らぬものもある。蚋(ぶゆ)・蚊・虻(あぶ)・蜂・蟻・蛄蟖(けむし)・蜘蛛・蛭(ひる)の類に至るまで用心すべきこと。
温かい地は、暑くて湿気が含んでいることとりわけ甚だしく、毒草や異虫も多いので旅人疲れて山野に休む時もこれらを心得べきだ。毒虫に刺された場合の妙薬等はこの本の後ろの方に記す。
図説
唐斑猫(からはんみょう)の色は微黄、日本の斑猫の色は瑠璃(るり)。蜥蝪(せきてき)の和名はトカゲ。石龍子、山龍子も同物。烏蛇(うしゃ)はカラスヘビ。蝮(ふく)はみ、又は反鼻蛇(はんびしゃ)はマムシのことで、色は黒黄、種類が多い。大毒あり。
解説
史料は「旅先では、こんな毒虫に注意してね」と様々な毒虫を挙げ、プチ昆虫図鑑のよう。虫の他にも、トカゲやヘビなどは絵入りで有り難いような、気持ち悪いようなです。
それにしても農村の人にとっては、当たり前のことしか書いてないと思います。しかし都会人――旗本や江戸の人は現代人同様ビックリしてしまうんでしょうね。虫格差社会?
史料情報
- 表題:旅行用心集/文化7(1810)
- 八隅芦庵 著、彫工:佐脇庄兵衛・同 伊三郎、出版元:須原屋茂兵衛・須原屋伊八
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3361
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旅行用心集
1.概要 2.東海道 木曽路・3.そのⅡ 4.旅の前日 5.持ち物
6.チェックイン・7.アウト 8.食べ物 9.毒虫 10.ソリ
11.雪かき道具 12.頭巾、帽子 13.履物・14.かんじき、下駄