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荻生徂徠『政談』5

武士の貧困 解決策はIターン

武家の江戸暮らしと田舎暮らし

荻生徂徠は『政談』で「畢竟武家が田舎に在らず、関八州明地(あきち)の様に成る故、(強盗など)悪類も多く関八州の地より出て、遠国へも悪さする。」と主張。田舎に住む武家側のメリットについて見てみましょう。

荻生徂徠『政談』巻之一

1.衣食住に費用がかからない!

「武家が田舎に居住するときは、第一食住に物入らぬ故(ゆえ)、武家の人々の身上直るべし。

総じて奢りは家内より起こる。武家の妻女が御城下にすむときは、次第に奢って身がなまって病者に成る故、その腹に生れる子柔弱にて、今は何の御用にも立たぬ様に成った。

これまた田舎に住めば、自ら機(はた)等織って身を動かし[1]、奢りも薄く、身も強くなり、武家の妻女にふさわしくなる。

男も野広く方々駆け歩き行って、手も丈夫に成るべし。親類・知人の所へ話に歩き行き、用事あれば五も十里も常に往来して、も自ら達者に成るべし。」

2.百姓とも仲良くなれる!

「その上また武家が田舎に住めば、田地の様子は、河川の治水工事等のことも見習い、聞き習う故、御役を仰せ付けられて(農村行政を司る)地方(じかた)御代官に罷成っても、江戸出生の者どもが手代(代官の下で農政庶務を担当)任せにするのとは雲泥の違いとなる。」

「今は、その身江戸に在って知行所遠方なれば、馴染みもなく、恩も貫かれず、ただ百姓より年貢を取る物と覚え、百姓はまた年貢を収めるものと計り覚えて、ただ取らん、取られじとの心計りで[2]、百姓に非道をする武士たちも之れ有る。

しかし不断に我が本拠にて見習い、聞き習いする[3]ときは、愛憐の心も自然と生じ、如何様の人にても百姓をさほど苛(むご)くはせぬこと[4]、これまた人情。武家を知行所に差し置くこと、此くの如きあって、甚だ宜しきことなり。」

  

補註

『論語』篇名 文章番号

  1. 体を動かし…微子07「四(したい)勤めず、五穀分(をさ)めず」
  2. ただ取らん、取られじと…子路04「上(かみ)を好めば、則ち民は敢えて情を用いざること莫(な)し」
  3. 本拠にて見習い、聞き習い…子路01「之れに先んじ之れを勞(らう)す」
  4. 百姓をさほど苛くはせぬ…子路02「有司(ゆうし)を先きにし、小過(しょうか)を赦(ゆる)す」

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系〈36〉荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイト運営者が現代語訳。直訳を心掛けた。

その際、尾藤正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )を参照して附した。

政談 目次

1.荻生徂徠とは 2.『政談』とは 3.武士の正規・非正規 4.武士の暮らし 5.武士の貧困

6.医者 7.国替 8.外様と譜代 9.国の困窮 10.歴史に学ぶ 11.貧困の解決策 12.経済活動

13.スピード社会 14.物づくり 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒・与力 19.人材登用

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