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荻生徂徠『政談』7

大名家に国替(移封・転封)を命ずる理由

武士が知行所ではなく城下町に住むようになった理由について、荻生徂徠政談』から見てみましょう。

荻生徂徠は『政談』巻之一

雲

秀吉より始まった所替え

「今の世の人、百姓より外は、武士商人も故郷と言うものを持たず、雲の根が離れたような境遇[1]で哀れな次第だ。

ただ昔は大名の家来もそれぞれ知行所を与えて、その知行所に住まわせたけれど、今は指支(さしつか)える事情がある。

元来、武士も皆、知行所に居たけれども、太閤秀吉の時より大名に所替え(ところがえ:大名の領地を他に移しかえること)をさせるという事が起こったので、そのような折に不便なので、家来皆々をそれぞれの城下に集め置いて、今は一様にこのような風俗となった。

その時代は戦国の(戦いが)始めて静まった砌(みぎり)で、その勢いを弱める術にて策略の一つとなっていたけれども[2]、是より日本国中の武士の人数が減少することは、武道に於いて宜しからざる事の第一。

天草一揆の折、粗末な小城に百姓一揆の籠りたるを、西国大名が数を尽くして攻めるも[3]、その折より早くも武士の数が減少したる証拠である。」

補註

  1. 雲の根が離れたような境遇…『論語』述而15「我に於いて浮雲(ふうん)の如し。」
  2. 加藤清正福島正則加藤嘉明黒田長政などの豊臣恩顧の大名は幕府の要注意人物。
  3. 天草一揆の折…詳細は代官_『政談』参照のこと。

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』の現代語訳は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系36 荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイトの運営者が現代語訳。徂徠節を尊重し、直訳を心掛けた。また、尾藤正英(翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年)を参照して附した。

荻生徂徠『政談』

1.荻生徂徠 2.本書概要 3.武士の非正規 4.旅宿暮らし

5.武士の貧困 6.医者 7.国替 8.外様譜代 9.国の困窮

10.歴史に学ぶ 11.貧困解決策 12.経済活動 13.スピード社会

14.物作り 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒与力 19.人材登用

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