荻生徂徠『政談』巻之一
1.外様に甘く、譜代に厳しい
「今の外様大名(国持大名)所替え(領地の移封)は例無きことで、御譜代大名ばかりに所替えを仰せ付けることは、これまた不公平で宜しからざる事だ[註]。
所替えの物入りは凡そ十年の痛手となると昔より申し伝わる。これより昔は所替えには定めて御加増あり。中頃は金を下さる。近年その沙汰無き事は幕府に金がない故である。外様大名を痛めずして、御譜代大名を痛めること、何の道理か理解し難い。」
2.実質違いなし
「御譜代・外様と云うも今は名ばかりで同じ事。幕府の始めの時分は、外様大名は敵対仕りたる者の子孫なれば、御用心有るものだった。御譜代も武功の者の子供にて、成程その頃迄は差別有るべけれども、今日に至りては何れも親類関係の中に成りて、何れも江戸育ちで、江戸を故郷と思う人である。」
3.奥ゆかしい外様
「全般の様子に、外様大名が奥床しき所があるは、所替えをせず、古き風俗を持ち伝えたる故(ゆえ)のこと。然らばお咎め有っての所替えは例外のこと、今後所替えを停止して、大名家中の武士にも、皆知行を与え、知行所に居住させれば、軍兵の数は昔に返って、日本武道の再興なるべし。大切の事なり。」
補註
- 不公平で宜しからざる…『論語』李氏01「均(ひと)しければ貧しきこと無し」
参考文献
現代語訳について
当頁『政談』の現代語訳は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系36 荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイトの運営者が現代語訳。徂徠節を尊重し、直訳を心掛けた。また、尾藤正英(翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。
補註について
補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年)を参照して附した。
荻生徂徠『政談』
1.荻生徂徠 2.本書概要 3.武士の非正規 4.旅宿暮らし
5.武士の貧困 6.医者 7.国替 8.外様譜代 9.国の困窮