
江戸時代の都市・江戸も現代と同じようにスピード社会でした。徂徠の『政談』から、都市・江戸の様子のせわしない様子を見ていきましょう。
早朝出勤する人間
「間に合わせるというのは、上の人の我儘に機嫌を合わせることなので、下の者はただ騒ぎ立て、走り廻るのをとりなしがいいとして、何もかもがせわしない状況である。
これより一切の号令等のたぐいまで、皆、下への思いやりなく、たちまちの内に下知の通りにするのを奉公としていることは、役人・奉行の風俗である。
例えば、朝10時に出勤せよと命じられると、朝9時に到着する。道の遠近を知らず、事がゆったり、急ぎである、の考えを巡らすことがないのでこの様になる。」
何故せわしないのか
「昔の武士は、兼ねて心がけがよく、このような急なことがあっても、手づまりがないように考えを巡らせて支度して置くが、今時の武家は前もって支度することは思いもよらず、不思議に間に合うことは、前述のように江戸が自由便利なので、金さえあればどのような火急なこともみな間に合うからである。
その火急のことに乗じて利益を得ようと商人どもは、にわかに物の値段を高くすけれど、客はとにかく間に合わせなければならないので、値段の交渉の高下にも構わず買い調えて間に合わせる。
これは今の武家の風俗となって、このように急なことでなくても、何事にも兼ねて心がけて支度するということはない。」
必要なものは直前に急いで買う
「例えば、出かけるので衣服を調べてみると、袴のくくりに緒がない、刀を腰にくくりつける皮ひもが切れたと、急に奉公人を走らせ町で買うので、高い値段で買って来てもとんちゃくなく、間に合って悦ぶ。」
「間に合わなければ主人は殊の外、不機嫌になるので、女房は用人などに相談して、質を置いて間に合わせ、主人に知らせない。
主人は、知っても仕方がないので知らなかったことにしておく。質に入れた品が急に必要な時は、狼狽して他の物と取替えるので、高利となって、一度質を入れると十中八九、始終この困った事態から免れない。」
政談の現代語訳について
当サイトの政談の現代語訳は、吉川 幸次郎, 丸山 真男, 西田 太一郎, 辻 達也 (著)『日本思想大系〈36〉荻生徂徠 (1973年) 』(岩波書店、1973年)をもとに当サイトの運営者が現代語訳しました。
その際、荻生 徂徠 (著), 尾藤 正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」 (講談社学術文庫) 』(講談社、2013年)も参考にさせていただきました。
荻生徂徠『政談』
1.荻生徂徠とは/2.『政談』とは/3.武士の正規・非正規雇用/4.武士の江戸暮らし/5.武士の貧困
6.江戸の医者/7.国替を命じる理由/8.外様と譜代の違い/9.国の困窮/10.歴史に学ぶ大切さ