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荻生徂徠『政談』13

江戸時代もスピード社会

スピード社会・江戸

現代と変わらない!?せわしない江戸の様子を荻生徂徠政談』から見てみましょう。

荻生徂徠『政談』巻之二

1.早朝出勤する人間

「間に合わせると云うは、上の人の我儘なる機嫌に合わせることにて、下たる者ただ騒ぎ立て、走り廻るを取りなしのよきこととする故(ゆえ)、何も彼もせわしなき[1]計らいだ。

これよりして一切の号令等の類まで皆、下の思いやりなく[2]、忽ちの内に下知の通りに成るを奉公とすること[3]は、上たる役人・奉行の風俗である。

たとえば四ツ時(朝10時)に罷出よ云う刻付これ有る召喚状に、五半(いつつはん/朝9時)時に到着す。これは道の遠近を知らず、事の緩急の了簡無き故(ゆえ)このようである。」

2.何故せわしないのか

「昔の武士は兼ねて心掛けよく[4]、左様のことが有っても、手詰まりこれ無き様に了簡支度して置いたが、今時の武家は兼ての支度思掛けもこれ無きに、不思議に間に合うことは、右に(前述)云ったように(江戸が)自由便利なる故、さえあれば如何様の火急なる事も皆間に合う。

その火急なるに乗じて利を取らんと、商人どもは物を俄かに高値にすれども、兎角に間に合わせなければならぬ事ゆえ、値段の高下にも構わず買調えて間に合わせる。これは今の武家の風俗となり、左様に急なることになくても、何事も兼ねて心掛け支度することはない。

譬(たとえ)ば出掛けて衣服を調べてみるに、袴のくくりに緒なし、足皮(あしかわ/刀を腰にくくりつける皮ひも)切れたとて、急に中間(ちゅうげん,武家奉公人)を走らせ町にて買う。

故に高値なるを買って来てもとんちゃくなく、間に合ったりと悦び、明日の出仕に下々の合羽見苦しと夜に成りて言えば、急に人を走らかして買調える。」

3.質も利用

「間に合わさねば主人殊の外不機嫌になるので[5]、女房は用人頭などに相談して、質を置いて間に合わせ、主人に知らせない。主人は知っても詮方無いので、知らなかったことにしておく。

またその質に入れたる品が急に必要な時、狼狽して他の物と取替えるので、高利と成って、一度質を入れると十中八九始終これ困るを免れない。」

  

補註

『論語』篇名 文章番号

  1. 何も彼もせわしなき…子路17「速やかならんと欲すること毋(なか)れ」
  2. 下の思いやりなく…八佾26「上(かみ)に居て寛(かん)ならず」
  3. 下知の通りに成る…先進24「道を以つて君(きみ)に事(つか)へ、不可なれば則ち止む」
  4. 兼ねて心掛けよく…憲問14「にして然る後(のち)に取る」
  5. 間に合わさねば…述而36「君子は担(たん)として蕩蕩(たうたう)たり」

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系〈36〉荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイト運営者が現代語訳。直訳を心掛けた。

その際、尾藤正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )を参照して附した。

荻生徂徠『政談』

1.荻生徂徠とは 2.『政談』とは 3.武士の正規・非正規 4.武士の暮らし 5.武士の貧困

6.医者 7.国替 8.外様と譜代 9.国の困窮 10.歴史に学ぶ 11.貧困の解決策 12.経済活動

13.スピード社会 14.物づくり 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒・与力 19.人材登用

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