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荻生徂徠『政談』15

江戸時代の衣服は何でもOK?!

衣服の制度がない江戸時代

身分関係なく何を着ても御咎めなし?荻生徂徠政談』から江戸時代の衣服の制度を見てみましょう。

荻生徂徠『政談』巻之二

1.今の格式はタダの風俗

「今の世にも大抵、それぞれに格式がある故(ゆえ)、物の道理を知らざる人は制度が有るように思うけれども、今の世にある格式というようなものは、古より伝わる[1]にも非ず。

また上より厳しく立たせられた決まりでもない。その中には上より時々に仰せ出されたることもあれども、何れも皆、世の風俗にて自然と出来たることにて、世の風俗移り行けば、その風と共にその格式と言うなるものも移り行く。」

2.衣服で上下の見分けはつかない

衣服の制度があるときは、これは大名、これは大役・高官の人と云うことが、坐敷の上にても自ら知れる故、人々は貴きを敬いて礼儀を自ら乱すことはない[2]。

然るに今の如きは、上は一人(いちじん・天皇)より下は百姓・町人迄も、何れも小袖を着て、麻上下(かみしも)を着ること同様にして、その衣服の生地はさえ有れば何を着ても誰制する人もなし。

上下の見別けなき故、高官・大役の人も下の者と差別の立て様なく、各々がいかめしい体をして、これにて高下を別つこととなり、我が身の君子の礼を失うことを知らない。

御役人・奉行などの無礼甚だしくなり、下たる者は礼に過ぎて這(は)い屈(かが)み、諂(へつら)う風俗甚だしきは、制度無きを以ってである。」

3.綱吉御講釈時のエピソード

「五代将軍・綱吉公の周易の御講釈を拝聞仰せ付けられ、某なども登城して御講釈の坐に列(つらな)りし時、熟(つらつら)と傍らを見廻したるに、御老中も、若老中も、大名も、御旗本も、有官無官ともに某等が衣服と何の異りもなし。

これを見て、余りのことに涙こぼれて茫然となった。兎角金さえ有れば賤しき民も大名の如くにしても、何の咎めもなし。

4.倫理崩壊

唯悲きは、金を持たず、暮らし向き悪ければ、高位・有徳の人も自ずと肩身すぼまりて、人に蹴落とされる今の世界。これにより人々我が勝とうと奢りをして人に勝らんとす[3]。

それをまた見様見倣(みまね)に我立派を為(な)さん為さんと思うから、世間次第に奢りになり、その奢り年久しければ自ずと風俗となり、その中に成長する人はこれを奢りと云うことも知らず、唯そう有あるべき筈と思っているということだ。」

補註

『論語』篇名 文章番号

  1. 古より伝わる礼…衛霊公11「夏の(とき)を行い、殷の輅(ろ)に乗り、周のを服す」
  2. 人々は貴きを敬いて…子路06「其の身(み)正しければ、令せずして行なはる」
  3. 奢りをして人に勝らんとす…泰伯11「驕り且つ吝(やぶさ)かならしめば、其の餘(よ)は觀るに足らざるのみ」

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系〈36〉荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイト運営者が現代語訳。徂徠節を尊重し、直訳を心掛けた。また、尾藤正英(翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )を参照して附した。

政談 目次

1.荻生徂徠 2.本書概要 3.武士の非正規 4.旅宿暮らし

5.武士の貧困 6.医者 7.国替 8.外様譜代 9.国の困窮

10.歴史に学ぶ 11.貧困解決策 12.経済活動 13.スピード社会

14.物作り 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒与力 19.人材登用

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