くずし字で楽しむ江戸時代の暮らしと文化

古文書ネット

  1. HOME
  2. 資料集
  3. 荻生徂徠・政談

荻生徂徠『政談』3

武士の正規・非正規雇用

譜代奉公人と出替り奉公人

正規雇用が少なくなって非正規労働が増えて久しい近年。既に江戸時代の武家において同じ様な状況であることを、荻生徂徠政談』によって確認できます。以下に詳しく見てみましょう。

荻生徂徠『政談』巻之一

1.譜代の奉公人

「譜代は面倒なものだ。家内にて生まれ出る者なれば、幼少より介抱のいる事である。成人しても、衣食に附き、諸事に附き、押したり引いたりして使う、世話をせねば成らぬ者だ。

そうして我家に属したる者にて、外へ行くべき所なければ、見放す事が難しい[1]。主人に甘える者也。悪き人柄にても為すべき方法無ければ、切り棄てるより外の仕方なし。」

2.出替り奉公人とは

「出替り者は一年限りの契約なれば、悪き者にても一年はこらえ易い。悪事あれば保証人に引き渡して、手前(主人)が世話をなさず。衣類諸事、皆彼が自分にてすれば世話なし。」

「出替り者ばかりを召し使う故(ゆえ)、自然と家来との間に愛憐なく、一年限り故、その心は互いに路ですれ違った人を見るが如し。」

3.武士道の衰廃

「幼少の者の生立ちも、譜代者の手に育てられたのと、出替り者の手に育てられたのとは格別だ。

譜代者は先祖の家風をも覚えて居り、また主家に年久しければ、親類も見知って、下部(しもべ)ながらも恥も知る[2]。己も主人の恩にて育ちたる者なれば、主人の子を育てる心行きは格別である[3]。

出替り者は左様のことはなく、唯当分の生計の為に、当分の奉公する迄[4]。左様の者の手に掛かる故、かくして武家の人柄段々悪くなる。」

「譜代者絶えて皆、出替り者にばかりに成りたるは武道の衰廃にて、武家の為には極めて悪きこと也と知るべし。この有様を料簡したならば今後、武家に譜代者が出来るように処置すべきことだ。」

  

補註

『論語』篇名 文章番号

  1. 見放す事が難しい…泰伯02「故(こきゅう)遺(わす)れざる」
  2. 恥を知っている…為政03「恥有りて且つ格(きた)る。」
  3. 主人の子を育てる…憲問08「にして能く誨(をし)えること勿(な)からんや。」
  4. 唯当分の生計の為に…子路23「小人は同(どう)して和せず。」

参考文献

現代語訳について

当頁『政談』は、辻達也 校注「政談」『日本思想大系〈36〉荻生徂徠』(岩波書店、1973年)をもとに当サイト運営者が現代語訳。直訳を心掛けた。

尾藤正英(翻訳)『荻生徂徠「政談」』(講談社、2013年)も参考にした。

補註について

補註は当サイト独自に平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社, 1980年 )を参照して附した。

政談 目次

1.荻生徂徠とは 2.『政談』とは 3.武士の正規・非正規 4.武士の暮らし 5.武士の貧困

6.医者 7.国替 8.外様と譜代 9.国の困窮 10.歴史に学ぶ 11.貧困の解決策 12.経済活動

13.スピード社会 14.物づくり 15.衣服 16.品格 17.代官 18.御徒・与力 19.人材登用

関連記事

享保の改革新井白石旗本とは