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荻生徂徠・政談その14

スピード重視の家作り

徂徠は政談の中で、江戸のスピード社会に伴い、家作りもスピード重視で建ててしまうとと述べています。都市・江戸の家づくりについて詳しく見てみましょう。

家

誰も何も知らない家作り

「田舎の家作は、山で木を乾燥させて置いて、大工を呼び寄せ、幾日もかかって建てるから家が丈夫で年久しく堪える。

御城下は何もかも御城下の町で買い調え、例のせわしない風俗で急に建てる。

とりわけ主人たる人も家老も何も知らず、職人任せにして、年久しく出入りしている大工に見積もらせれば、その大工も自分の家を建てることはついになくて、人の家を建てることばかり有能な人間である。

自分が頼んだ材木屋に見積もってもらい間に合わすので、なにもかも皆、商人任せである。その商人も御城下で成長した者なので、材木の良し悪しを知らない。ただ御城下の売買上での有能な人間である。

幕府の請負などするにしても、詰まる所、皆、普請の真髄を知らない人間が適当にやっているのである。商人も知らない。それを適当に片付ける役人も知らない。」

世渡りに追われる大工

「有用な人間と言うのは、ただ御城下にこの様なことをするのに慣れるた人のことを言っているのである。

その上に立つ役人は、ただ費用が高くつかぬよう考えを巡らし、目付をつけて邪推して、下の者が利益をむさぼることを阻止しようとする。

自身は何れも知らないので、詰まる所、商人に欺かれて、御城下の普請は益々悪くなって、その損害は言うに計り知れない。

昔の大工は、家に巻物が伝わって堅く法を守っていたが、現在の大工は世渡りに追われて、少ない細工で多く受け取ろうとするので、細工も次第に次第に下手になって、家居も早く損ずる。」

重箱

手間暇かけた昔の物づくり

「器物もまたこのようなものだ。私の家に、父方の祖父母の伊勢でこしらえた朱塗りの椀の家具がある。

祖父より父に伝え、父から伝えられて今ある。百年余り経っても朱色は替わることなく、傷もつかない。その丈夫なこと、甚だしい。

以前暮らしていた上総国(千葉県)の田舎で、私は百姓の重箱などを作るのを見たが、塗師は不自由である。塗師は一人で上総国中をあちこち雇われ歩いて、細工するのである。一か所に二十日も三十日も居て塗り、また脇へ歩いて細工する。

始め塗っておいた物が乾いた頃を見計らって来て、蒔絵を施す。その漆も別に買い調えて置いて塗らせ、下地も兼ねて塗って作っておいたので、何もかも望みのように作り上げ丈夫である。」

材木

飛騨の匠の技

「上総国松ガ谷と言う村に釈迦堂(勝覚寺)がある。飛騨の匠が建てると言い伝えがある。棟札(むなふだ)を見れば四百五十年にもなる。」

「飛騨の匠というのは、総じて飛騨より出る大工である。その頃、上総国に大工はいない。飛騨大工は、上京して公役を勤めることもあり、国々を廻ることもある。

普請を請け負うと木を取り、それより五里も十里も脇へ行き、段々先へ先へと行って、左記の最初に請け負った木が乾燥した頃に廻り来て、木を削りたて仕上げておき、又脇へ行き、その削って置いた木が乾燥した頃に来るので、一か所の普請に二年も三年もかかる。」

急に間に合わせる江戸

「武家が知行所に居住すれば、所持皆、自由なので人の心を練り、何事も年を積み、心掛けて成就することになる。

御城下は自由便利な上にせわしなく、急に間に合わせるふうで、何事も皆、当座に賄うことをするので、上下の損失は積もって計り知れないと知るべきだ。」

  

政談の現代語訳について

当サイトの政談の現代語訳は、吉川 幸次郎, 丸山 真男, 西田 太一郎, 辻 達也 (著)『日本思想大系〈36〉荻生徂徠 (1973年) 』(岩波書店、1973年)をもとに当サイトの運営者が現代語訳しました。

その際、荻生 徂徠 (著), 尾藤 正英 (翻訳)『荻生徂徠「政談」 (講談社学術文庫) 』(講談社、2013年)も参考にさせていただきました。

荻生徂徠・政談

1.荻生徂徠とは/2.政談とは/3.譜代と出替り奉公人/4.旅宿暮らしの武家/5.武家は田舎に居住すべし!

6.江戸の医者の特徴/7.城下町居住の理由/8.外様と譜代の違い/9.貧困問題について/10.歴史に学べ!

11.貧困を救う道/12.金で物を買う将軍/ 13.スピード社会・江戸/14.スピード重視の家

15.衣服の制度がない/16.上に立つ者の品格/17.代官とは/ 18.御徒・与力とは/19.人の器とは

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