原文(解読文)
痳疹養生(はしかようぜう)心得方(こゝゑかた)
かろきかた
一 此度(このたび)痳疹(はしか)流行(りうかう)いたす事、広大(かうだい)にして其中(そのなか)にも種々重軽(おもかる)ありて、先(まづ)かるきは初日にすこしさむけありて、引風(ひきかぜ)のこゝちにて二日目に少し気分(きぶん)あしく相成(なり)三日目にいたり薄赤(うすあか)く発(はつ)す也
当年(とうねん)のは夏気(なつき)ゆへ腹(はら)下り、熱(ねつ)あり候共、さしかまい無し、五日六日目位にしてうせる也、八日目にして全快(ぜんかい)す、かるきゆへ養生(ようぜい)あしわけず再発(さいはつ)いたし重(おも)くなる也、食事(しよくじ)を能(よ)く心付(こゝろづけ)風にふかれぬ様(よう)大事にいたすべし
○食(しよく)してよき物
一 名外麻葛根湯 痳瘡良薬法(はしかに よきくすりのほう)
- △葛根(カツコン)三匁 △外麻二匁 △芍薬(シヤクヤク)二匁 △甘草(カンゾウ)二匁、右四味(よみ)調合(てうこう)して生姜(せうが)入有ば、●いは入せんじ用(もち)ゆべし
- ○内攻(ないこう)の大妙(みよう)薬:△穿山甲(センザンコウ)△牡蠣(カギガラ)此二味火にてやき △紅花(コウカ)△川芎(センキウ)△大横(ダイオウ)△甘草(カンゾウ) 右六味せんじ用ゆるべし
- ○はしか目に入たる時の妙薬:△せついんの虫を二ツにさきて、其汁(しる)を目の中へさして宜
- ○かゆみをとめる妙薬:△黒豆(クロマメ)△陳皮(チンビ)△大麦(オヽムキ)△生姜(セウガ)右五味せんじ用ゆ
おもきかた
一 先(まづ)初日よりさむけいたし又は熱(ねつ)いて、づゝういたし、寝(ね)びゑかく、乱(らい)なぞと心得(こゝろへ)違(ちが)ひ致(いた)すと、一大事(だいじ)也、薬(くすり)相違(ちかい)の無之様(なきよう)能(よ)く心付医師(いし)にかけべし
二日目三日目頃(ころ)より、気分(きぶん)追(おい)々あしく五六日目には絶食(ぜつしよく)に相成(あいなり)おゝいにくるしむ共、余病(よびよう)なくんば、心配(しんはい)無之(なし)、此時(このとき)手(て)おくれにならざる内(うち)良薬(りようやく)を用(もち)ひべし、八日九日同位(くらい)にして、赤薄(あかうす)黒(くろ)くいでる也
十六日目位にしてかせるなり、養生(ようぜう)能(よ)々、心付(こゝろづけ)食物(しよもつ)のよしあしを気(き)を付(つけ)くわすべし、廿日位にして全快(ぜんくわい)す、ぜんくわいの後(のち)風にあたらぬ様(よう)養生守つにすべし、養生あしく食物(しよくもつ)なそにて、再発(さいはつ)致(いた)候得者、命(いのち)危(あやう)し
○食(しよく)してあしき物
○(はしか)まじない奇薬(きやく)
- △ きんこを塩(しほ)あまく煮付(につけ)くわすべし、咽(のど)へできぬ事妙也
- △ 麦(むぎ)わらに、かわらよもき二種(にしゆ)をせんじのますば、山あげるなり
- △ 糸柳(いとななぎ)を手一足(そく)に切(きり)せんじ、のますれば山あげる事妙なり
- △ おかぜりをせんじ、きよう水(ずい)をつかわすれば、かるくする也
- △ せつぶんの柊を葉(は)を七枚(まい)せんじ、のますれば必ずかるい也
- △ 発(はつ)しぬ時(とき)は、牛房(ごぼう)十程(てう)斗のますべし
さいかくを用ゆもよろし、此外種(しゆ)々あれ共、紙(し)すかぎれば略す
解説
はしかの養生について書かれている錦絵。描かれている、右上女性は「かろきかた」。右下「おもきかた」のお顔にひどい発疹が見られますが、どこかユニーク。はしかが異国からもたらされた病ということで、異国の坊やなのかもしれません。
然しながら御覧のとおり、史料は絵より文章がメイン。はしかの症状の概要や養生法はもとより、他のはしか絵には余り見られない「良薬法」から「まじない奇薬」まで紹介しています。
他のはしか絵以上に「食してよき物」「食してあしき物」を列挙。かくして野菜 果物・加工食品・海産物にまとめました。ご参考ください。
史料情報
- 麻疹養生心得方(はしか絵)
- 年代:文久2. 7/芳虎 画、錦盛堂 板元
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書6369-1
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