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異体字その7

常用漢字とは 当用漢字含む漢字制限史と未来

概要:常用漢字とは

「常用漢字」は一般に、戦後にできた「当用漢字」に代わって改訂された「常用漢字表」のこと。

然しながら常用漢字を額面通り受け取れば、国家が定めたというより「日常使用する漢字」。また、漢字制限の歴史は古く幕末までさかのぼり、大正にも常用漢字表はありました。

戦後の」常用漢字表は、当用漢字表より一〇〇字ほど多いです。しかし「新字体」(略字)を引き継いでいるので、旧字体(正字)ではありません。これにより、活字(楷書)であっても戦後教育のみだと、戦争を忘れてはいけない!と叫びながら、戦中の文章が読めないのです。

何故こんなことに…。漢字制限の歴史と漢字の未来について、以下に見ていきましょう。

幕末の漢字制限論

漢字制限の歴史は、慶応二年(1867)一二月に、将軍徳川慶喜に建白書として提出された、前島来輔(らいすけ/密:ひそか)の「漢字御廃止之議」まで遡ります。

「国家の大本(おおもと)は、国民の教育にして、その教育は士・民を問わず、国民に行き渡らせ、行き渡らせるためには成るべく簡易な文字文章を用いるべきだ」

この主張の背景には、お察しの通り、ペリー来航以降、外交問題が切実なものとなり、「他の列強と併立」する「国家富強を為す礎地」を築くかんとなりました。

西洋医学を学び、オランダ語や英語には早くから触れていた前島。彼曰く「「」は仮名で「チウカウ」と書けばいい」。建白書は漢字の使用をやめて、あらゆる語を仮名で書こうというという主張でした。

このような漢字制限論に関しては以下に分けられます。

  • 漢字廃止論:漢字をいっさい使用しない。
  • 漢字節減論:使う漢字の種類を制限する。

漢字表の歴史

明治~戦中

1.小学校令施行規則第三号表

文科省、明治三三年(1900)八月。一二〇〇字。第一号表は仮名の字体、二号表は字音仮名遣い、三号表は小学校に小学校で教育するための漢字表。同年一月の請願書曰く、漢字一字ごと「楷行草の三体」ある「複雑な状況下」。略字がある場合、それを使用して可。

漱石『こゝろ』大正三年(1914)、葛西善蔵『子をつれて』同七年、賢治『どんぐりと山猫』同一〇年。

2.常用漢字表

臨時国語調査会、大正一二年(1923)五月。一九六三字。同会会長に森林太郎(鴎外)。常用漢字表のほかに「略字表」として一五四字も発表、辯・辨の略字は弁、餘・余の略字は余を認めました。

3.修正常用漢字表

臨時国語調査会、昭和六年(1931)五月。一八五八字。「時勢の推移」を考え併せて、2.常用漢字表を修正。仮名で書いても「おかしくない」語は削減できるとし、など動物名、など植物名が含まれました。明治六年の教科書参照のこと。太宰治『待つ』(同一七年(1942)一月)。

4.標準漢字表

国語審議会(文部大臣の諮問機関)、同一七年(1942)六月。二五二八字。当表は、常用漢字(丁・丈・世など)・準常用漢字(且・丘など)・特別漢字(丕など)に分かちます。しかし一二月の文部省案にはこの区別はないです。

5.修正標準漢字表

国語審議会、同年一二月。二六六九字。前年に太平洋戦争勃発。4.標準漢字表を基礎として「さらに検討審議を加へた」。常用漢字ではなく「標準的に使用される漢字」の一覧表であり、同年一二月、情報局編輯『週報』第三二四号曰く「大東亜共栄圏の共通語」。坂口安吾『堕落論』(昭和二一(1946)年「新潮」四月号)

戦後

6.当用漢字表

国語審議会、昭和二一(1946)年一一月。一八五〇字。戦後、日本に進駐してきた連合軍による戦後処理の一環で、漢字の字形を簡単にする、使える漢字の種類を減らすことの二本立てで進行。「当用漢字は、一般社会で使う漢字の範囲を示したものであります」(義務教育漢字主査委員会 長・安藤正次)。

7.当用漢字別表

国語審議会、同二三年(1948)二月。八八一字。当別表の別称は教育漢字。当用漢字の「一八五〇字は義務教育期間にそのすべてを教えるには多きにすぎる」一方で「だれにでも読め、だれにでも書けなければならない」(同長・安藤正次)。かくして旧字体(兒・傳など)に代わり「新字体」(児・伝など)が示されました。

高見順『あるリベラリスト』(同二六年(1951)五月)

8.常用漢字表

国語審議会、同五六年一〇月。一九四五字。当用漢字表より九五字多く、漢字制限論者の中には「文字言語政策の反動化」であると激しく抗議。

また、当用漢字が漢字を使う際の制限的な色彩が濃いものだったのに対し、常用漢字は日常的な常用漢字の「目安」とされていて、制限的性格が希薄になったことに対し強い抵抗感を表明する人もいました。一方、あくまで「目安」も、強く言語生活に影響を及ぼしました。

9.改定常用漢字表

文化審議会(改 国語審議会)、平成二二年六月。二一三六字。結局、一九六字を追加して、五字を削減し、二一三六字が表に載せられました。これは戦中の修正標準漢字表よりも五〇〇字少ないですが、戦後の「当用漢字表」に比べると三〇〇字ほど増えました。同会答申に「公共性」という表現あり。常用ならぬ公用漢字?

漢字の未来

七〇年代末から八〇年代にかけて、漢字が機械では書けないという「欠陥」は、ワープロが発明されたことにより克服。

かくして漢字を扱う、かつてあった様々な制限はなくなりつつあります。今後、日本語をひらがなやカタカナ(あるいはローマ字)だけで書くべきだという主張が唱えられることはないでしょう。

ところで漢字制限は、あくまで活字(楷書)を前提にした議論。草書篆書など書体は問題にすらなっていません。もちろんワープロ登場以前の「手書き」の文章の方が、リアルで思いが伝わってくるものです。

単に旧字については、私は特に示偏(しめすへん)・左側を「示」で神や祝などを、ここに出力したいです。未だJISコードに収録されていない漢字――古典を愛する者にとっては、これぞ、常・用・漢・字です。(笑)

参考文献

  • 今野真二『常用漢字の歴史』(中央公論新社 、2015年)
  • 阿辻哲次『漢字の社会史』(吉川弘文館、2012年)「日本の国語改革_終章 二十一世紀と漢字」198-209頁

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