解読文
原文
弟(てい):年わかき人は物(もの)事をさしひかへ、おのれより一つにても、としかさなる人、其ほか我より位(くらゐ)ある人には、取わけ慇懃(いんぎん)にあしらひ敬(うやま)ふべし
おのれを憍(たかふ)り、人をかろしむることなかれ、人に憎(にく)まるれば、災(わざわひ)をもとむるものなり/哥ニ 人にたゞ まけしと思ふ 心こそ やがてわが身の あたと成なり
現代語訳
弟(てい)[註1]:年若い人は、物事を差し控え、自分より一つでも年を重ねた人、その外、自分より位の高い人には取り分け丁寧にもてなし敬うべし[註2]。おごり高ぶって人を軽んじることなかれ。人に憎まれれば災いを招く。
歌に「人にただ まけしと思ふ 心こそ やがてわが身 あたと成なり」(人にただ負けじと思う心こそ、やがてわが身の仇となる)
補註
- 弟…『論語』学而06「出(い)でて弟、慎みて信あれ」(外に出ては悌順(ていじゅん)、言行を謹んで裏切ることをするな)
- 自分より一つでも年を…『論語』学而02「其の人と為(な)りや孝弟(こうてい)にして、上(かみ)を犯すことを好む者は鮮(すく)なし」(その人がらが親に孝、兄弟に悌でありながら、年長にさからうことを好む者は、めったにない)
解説
弟(てい)とは儒教徳目の一。『漢和辞典』によると、①順序、ついで。②おとうと、年下の者、後輩。③門人。④したがう。従順にしたがう。⑤自己を謙遜していう。とあります。
孝・弟・忠・信の中で一番わかりにくいのが弟だと思いますが、史料『百姓往来』は、上記漢和辞典の意味を端的にまとめたかのように、挿絵と共にわかりやすく説明しています。
孔子の弟子の有子(ゆうし)は「孝弟なる者は、其(そ)れ仁を為(おこ)なふの本(もと)か」『論語』学而02と言い、これは仁の根本が孝悌にあることを感慨を込めて言います。
参考文献
- 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年 )
- 林大(監修)『現代漢語例解辞典』(小学館、1996年)
史料情報
- 表題:百姓往来
- 年代:文政 3/浪花禿帚子 再訂、鱗形屋孫兵衛・ 西村屋与八 板
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3384
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