解読文
原文
支那人(しなじん)往古(わうこ)は、其象(そのざう)を画にて見るのみ、故(ゆゑ)に象(ざう)とは号しなりされば、蛮名(はんめい)をヲリハンヲといひ種類(しゆるい)一(いち)にして、身色(みのいろ)一ならず、
仏書(ぶつし)に所謂(いわゆる)白象(びやくざう)は四牙(しげ)六牙(ろくげ)なるも有(あり)とかや、夫(それ)象(さう)は三獣(さんしう)の一にして将(まさ)に宇宙(うちう)の聖獣(せいしう)たり、その
※()における仮名ルビにおいて、不明瞭な文字は省略した。
現代語訳
中国人の昔はその象を絵で見るのみ。故に象とは呼び名で、夷狄の名をヲリハンヲと言う種類一にして、身色(みのいろ)一ならず。仏典に所謂(いわゆる)白象は、四つの牙や六つの牙なるもあるそうだ。象は三獣(兎、馬、象)のひとつにして、まさに宇宙の聖獣である。
MEMO
史料文中の「三獣」とは、三獣渡河という仏語から由来します。三獣渡河は、三乗の修行に深浅があることを兎(うさぎ)・馬・象が川を渡るさまにたとえたもの。
声聞乗(しょうもんじょう)は兎が水に浮いて水底に届かないように、縁覚乗(えんがくじょう)は馬の足が水底に達したり達しなかったりするように、菩薩乗(ぼさつじょう)は象の足が水底に達するように、それぞれ程度が異なるという意味があります。
史料情報
- 表題:象見世物絵
- 年代:文久3.弥生.上旬/一登斎芳豊 画・仮名垣魯文訳 誌、版元:通油町 藤岡屋慶次郎
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書5780
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