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かわら版9

瓦版 アメリカ人とロシア人1_現代語訳と解説

史料

アメリカ人とロシア人_瓦版

※無断転載禁止

現代語訳

北亜米利加(アメリカ)内 合衆国

この国は、元八か国だったが後に十三国となり、また近頃増して加えて三十二以上の大国となる。またこの地の国王は、前任者を退けることによって相続するのではない。

国中で才知が優れた者が選ばれ、国の司(つかさ)として諸州の大計・契約を定める。これを共和政治と言う。中心地は「わしんとん」と言う。元ヨーロッパ人がこの国をひらく。もっとも風俗は同じではない。この国のは勇壮にして、学術を好み、法度に厳しい。

時候は日本より少し寒いが、田畑の実りは良い。大いに豊かな国だ。日本のにあたり、海上は凡五千である。

欧羅巴(ヨーロッパ)内 帝国魯西亜(ロシア)

この国は世界第一の大国にして、ようろつぱより日本の奥・蝦夷の島々に続いて、国本五十一国に分ける。首都はべいとるびゆる(ペテル(ス)ブルク)と言う。ロシア人は勇壮にして、また軍術を鍛練する。

近ごろ伯徳禄(へいとる:ピョートル1世)という大将が出てきて、民芸に達し、軍隊の威力は甚だ勢いがである。西洋の諸国で比べる者なし。時候は東方は悪く、南方は良い。日本から正北に当たり、海上里数は大国なので定かでない。

>>原文解読

解説

幕末黒船来航に伴い、当瓦版ではアメリカ人ロシア人を紹介しています。

ロシアについて「べいとるびゆる」と「伯徳禄(へいとる)」が、私には何を誰を指しているのかわからなかったので、当頁にて厚かましくも世界に向けてご教授を仰いだところ、ロシア帝国史をかじったことのあるというD.N.さんからメールをいただき(2016年11月)に解決しました。大変ご丁寧な回答は下記の通り。

▼ここから

ピョートル大帝(1世ピョートル・ヴェリィーキィ)=へいとる

日本史で言えば側用人政治華やかなりしころから、八代将軍吉宗享保年間の前半と在位の時期が重なります。バルト海の制海権を争って当時の大国であったスウェーデンと争い(大北方戦争)南へはウクライナや黒海方面へと徐々に拡大していった時期です。

ペテルブルク=べいとるびゆる

彼がモスクワから、ネヴァ川河口の湿地帯に新都を建設したのが一八世紀の初め。既述「聖ペテロの町」を意味するペテルブルク(現代ロシア語発音ならピチルブル(ク))です。「ペテロ」はロシア語で「ピョートル」。聖ぺテロの町であり、ピョートルの町であり、というダブルミーニングであるともいえます。

日本奥えぞの島々につゞゐて/日本より正北(まつきた)に当り

今の沿海州が、いまだ清国領でウラジオストクの影も形もなかった(ロシア領になりウラジオストク建設の測量が始まるのは、アロー号戦争以降の国際政治の展開で北京条約が結ばれる1860年以降)ことを踏まえると、蝦夷、千島樺太の連なりの先にある国だという説明も非常に忠実なもののように見えます。

▲ここまで。

…この瓦版、完璧じゃないですか!ただの紙切れだと思っていたのに(笑)。この瓦版を書いた人の記者魂、半端でない。テキスト情報から改めて視線を、真ん中のイラストのアメリカ人とロシア人に移すと、恐ろしいほどリアルな描写に見えてきました。

史料情報

  • 表題:[北亜墨利加ノ内合衆国并欧邏巴ノ内帝国魯西亜]
  • 年代:近世
  • 埼玉県立文書館収蔵 増田家文書399
  • 当サイトは同館から掲載許可を頂いてます。
  • ※無断転載を禁止します。

瓦版

概論象見世物1その2その3虎見世物1その2

黒船来航1その2/アメリカ・ロシア人1・その2

オランダ人と貿易1その2

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