解説
概要
往来物(おうらいもの)とは、庶民の初等教育に用いられた教科書のこと。
『世界商売往来』は、明治四年(1871)刊行の橋爪貫一著作。江戸時代が終わり、西洋との交易が始まり外来語が増え、分かりにくいので作られました。絵入りで、世界の「品物の名前」を列挙。本書は一見、新しい教科書のように見えますが、前例がありました。
『商売往来』の変遷
江戸時代
元禄七年(1694)、京都の手習師匠・堀流水軒(ほりりゅう-すいけん)著『商売往来』が、大坂の高屋平右衛門より刊行。
帳面類、貨幣、商人に必要な教養から、衣料・食物・家財道具・薬種香料など商品の語彙を二九六も列挙。商人のみならず多くの人々に役立つ教科書として、幕末まで二〇〇集種以上の版を重ねました。
編集方式を『商売往来』に倣った『百姓往来』(文政三)は、儒教徳目の孝・弟・忠・信から始まって、次に様々な農具を紹介。現代人でスラスラ書ける読める人は、いないであろう漢字が並びます。況(いわん)や当時の子供も難しかったらしく、より平易なものが追及されました。
かくして『商売往来絵字引(えじびき)』が登場。本書は儒教徳目の礼・楽および射(射芸)・御(馬や車を扱う)・書・数から始まって、本編では文の間に挿絵を入れてた『商売往来』です。
明治時代
明治に入り、近代化を目指す新政府のもとで作られた『世界商売往来』は、(福沢諭吉が大嫌いな)儒教徳目はバッサリ削られ、世界の国名から始まり、世界の品物を列挙。すなわち船の構造、武器の種類、航海道具、旅館や商家の人々、洋服・装飾品、雑貨、料理器具、馬の道具、農機具、植物の種類、魚の種類…など。
現在においては本書を読むことで、当時の外来語の日本語表記を知ることができます。外来語をよく理解したうえで、漢字や仮名で適切に表現されています。また、言葉の歴史をひも解くことができるでしょう。
参考文献
菅野則子「第二章 寺子屋の教科書を読む」 『入門 古文書を楽しむ』(竹内書店新社、2000年)42-61頁
史料情報
- 表題:世界商売往来
- 年代:明治4(1871)/橋爪貫一 著・加藤雷州 画
- 埼玉県立文書館寄託 小室家文書3378
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