解説
史料(伊勢暦)真ん中(青枠)の桃の形をしたイラストは、三鏡宝珠形(さんきょう-ほうじゅがた)と言います。本来ならば三鏡神の方角を記載すべきものですが、伊勢暦などの印刷した暦・版暦では宝珠形が記載されるのみです。
伊勢暦、明治時代の略歴しかり宝珠形があることで、これは暦だと瞬時に認識できます。また宝珠形を見つけたら暦法(れきほう:暦を作る法)は、現行の太陽暦でなく陰暦(旧暦)である可能性が高いです。
ところで三鏡(さんきょう)とは、天星玉女(てんせいぎょくじょ)・色星玉女・多願(たがん)玉女の三つの星で、この三女神のいる方角は、いずれも才徳にも劣らない吉方。
宝珠(ほうじょ)は、お寺の階段や廊下の縁に設けられた柱の上に付いている飾り金具。桃の形をしています。桃と言えば桃太郎ですが、桃は五行説の金気に属し、桃形(ももなり)は武将に好まれた兜の一。
かくして、江戸時代の暦のシンボルとしてこれを見た時、三鏡方位の記載なく、その造形は宝珠より桃の断面により近い。であれば単純に三鏡宝珠形ではなく、桃の断面形とした方が、表現としては的確のように思います。
且つまた三鏡としての意味が薄れた以上、桃形に金運を呼び込む願いを込めているのでは?と推測を禁じ得ません。引札暦新暦と陰暦は、むしろ金運こそが主題のようなカレンダーなので。
参考文献
- 伊東和彦「第三章 暦の内容」岡田芳朗「第六章 暦を読む」『暦を知る事典』(東京堂出版、2006年)83、87、204頁