解読文
原文
右者我等要用ニ差支、貴殿江御無心申書面、金慥ニ借用申所実正也、但し此金返済義者、来ル卯八月中元利共ニ急度返済可申候、若又其節金子出来兼候ハヽ、我等持高ノ内名所きふげんニて麦畑壱斗八升蒔、外ニかわら内麦畑壱斗八升蒔、合三斗六㊞升蒔、証文認直し相渉可申候、此畑ニ付先判横合等決而無御座候、貴殿少も御苦難相懸ケ申間敷候、為後日手形一札如件
嘉永七年寅九月/借用人・幸太郎㊞、証人・和惣次㊞/忠五郎殿/前書通り相違無御座候ニ付、致奥印者也 名主・万平㊞
>>読み下し文
現代語訳
借用証書の事/金一〇両(約750,000円)を借りました。但しこれは世に通用している金貨です。右は我らが必要なお金に困り、貴殿から用立て申し上げ、お金を確かにお借りしましたことに間違いありません。但し返済のことは、来る(安政2)卯年八月中に元利ともに必ず返済いたします。
もしその時にお金が工面できなかった場合、我らの持高のうち住所(小字)きふげん・麦畑一斗八升(36kg)の外に(小字)かわらのうち麦畑一斗八升、合わせて三斗六升(72kg)を差出し、証拠のため書き改めお渡し申し上げます。
この畑に付き前の証文や外から文句をいう人は決してございません。貴殿へ少しもご迷惑をおかけすることはありません。今後のため書面にて申し上げます。
嘉永七年(江戸後期)寅九月/借用人 幸太郎㊞、証人 和惣次㊞/忠五郎殿/前述の通り間違いありませんので文書の最後に証拠として押印します。名主万平㊞
解説
江戸時代の中後期以降、村に貨幣が流れてきて石高制などという前近代的な制度にも限界がきます。また自然災害の影響で村が荒廃すると無宿が増加し、格差も広がりました。かくして古文書において、借入れ証文の類は非常に多くみられます。
質入れや金銭貸借は、清算されたのち証文は破棄されるか抹消のしるしがつけられるので、現在完全な形でみることのできる証文は返済が実行されなかった場合です。
史料本文中の捺印は改ざん防止。七行目末の「渉」は恐らく「渡」の当て字、全体的にも難読な史料です。
参考文献
桜井由幾 「質入証文・金銭貸借証文」『入門 古文書を楽しむ』(竹内書店新社、2000年)178-179頁
読み下し文
金子借用手形の事/一 金拾両㊞也 但し通用金の内
右は我ら要用に差支え、貴殿へ御無心申し書面、金慥(たしか)に借用申所実正也、但しこの金返済義は、来ル卯八月中元利共に急度返済申すべく候、もしまたその節金子出来(でき)兼ねそうらわば、我等持高のうち名所(などころ)きふげんにて麦畑壱斗八升蒔、外にかわらうち麦畑壱斗八升蒔合三斗六㊞升蒔、証文認め直し相渉(あいわた)し申すべく候、この畑に付き先判(せんぱん)横合等決してござなく候、貴殿少も御苦難相懸け申すまくじ候、後日のため手形一札(いっさつ)くだんのごとし
…中略…前書通り相違ござなく候に付き、奥印致しもの也 名主・万平㊞
史料情報
- 表題:金子借用手形之事(金拾両也)
- 埼玉県立文書館所蔵 飯島家764
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