解読文
入置申証文之事/一 金七㊞両也/右者無尽金無拠要用之儀有之貰請、書面之金子借用申所、実証也、但返済之儀者立会ニ付、金弐分小弐朱づゝ、無滞掛ケ送可申候、且又手前中り置候者、半口歩金七両小分貴殿、御手取可被成候、為後日入置申証文依而如件
>>読み下し文
現代語訳
約束を保証するために差出します。
一 金七両(525,000円)也/右は無尽講のやむを得ない必要なお金のことであり、貰い受け、書面にてお金をお借りしましたこと、確かです。但し返済のことは(無尽)集会日に付き、金二分(37,500円)と二朱金(10,000円)をその都度、滞り無く送ります。
その上にまた(無尽の抽せんに)中りましたら、一口の半分(約金二両)の利息、金七両の少しの部分はあなたさまの手取りとしてください。後日のため、約束を保証するために差し出す証文は前記のとおりです。
解説
1.背景
無尽(むじん)とは、江戸時代に盛んになった金融組織の一。無尽は相互救済組織でしたが、元利が払いきれない者も珍しくなく、当史料の場合は金七両(525,000円)も借りています。
板井村は比較的生産能力の低い村で、これを裏付けるごとく、代々板井村の名主を世襲した旧家・飯島家には未進や貸借金に関する史料が多く残されています。
2.小二朱とは
表題から五行目「小弐朱」の「小」とは何でしょうか。一分金のことを小粒(こつぶ)と言います。これに倣い「小」とは小粒の下の貨幣、また小銭の意として「小弐朱」は単純に二朱金と解しました。
また「小」があることによって、二朱と呼ばれる二朱銀と区別されるかと思います。二朱銀は計数貨幣、すなわち金貨の代用としての銀貨なので、二朱銀と訳しても金額に違いはありません。
3.返済期間
史料の字面だけ解読しても意味がよくわからないので、敢えて返済期間を求めます。そのためにまずは、金貨の単位を朱に揃えましょう。金貨は四進数です。
借入金・金七両=金二八分=金一一二朱、都度返済額 金二分二朱=一〇朱。一一二÷一〇≒一一回払い。
4.利息
幕府年率
幕府の法定年利率(享保九年,1724)は0.15。時代によって若干変動が見られますが、一割二分から二割の間。期間は大部分は一年。
よって金七両に上記利率を掛けます。7×0.15=1.05、利息は金一両となります。
5.一口の金額
史料は利息として、一口の半分を支払うとしています。金一両=半口分なので、逆算すると一口は金二両。
ちなみに恵比寿講の場合、一口金五両で一口を数人で乗り合いしていることもあります。
6.何講か?
史料には抽せんに中(あた)る都度、返済とあります。3.返済期間は一般に一年で、2.一一回払いと求めましたので、史料は毎月開催の講と考えられます。
それでは何を目的とした無尽が考えらるか。経済的講は月一回ないし年一回開催。信仰的講は恵比寿講が年一回、庚申講六〇日に一回、伊勢講は毎月開催となります。
また無尽は頼母子や講と同義に用いらることもあり、史料だけでは無尽の目的や詳細はわかりません。よって信仰的講の可能性も否定できませんが、経済的講としての理解で問題ないと思います。
参考文献
- 佐藤健一 編『江戸の寺子屋入門―算術を中心として』(研成社、1996年)
- 三省堂編『古文書を読む 解説ノート16号』(日本放送協会学園、2007年)
読み下し文
入れ置き申す証文の事/一 金七両也/右は無尽金、拠(よんどころ)無く要用の儀、これ有り貰い請け、書面の金子借用申す所、実証也、但し返済の儀は立会に付き、金弐分小(こ)弐朱づつ滞り無く掛ケ送り申すべく候、且又手前中(あた)り置き候もの、半口歩(ぶ)金七両小分(しょうぶん)貴殿、御手取成さるべく候、後日のため入れ置き申す証文依って件(くだんの)如し/文政五壬午(みずのえうま)三月日(以下略)
史料情報
- 表題:入置申証文之事(金七両借用)
- 埼玉県立文書館所蔵 飯島家698
- 当サイトは同館から掲載許可を頂いてます。
- ※無断転載を禁止します。